「ふぅ〜ん・・・」
「・・・。」
「な、なんで・・・!?」
「どうして!?」
ルセルさんは呟き、アクアさんは無言で、ルロクスとアウェルさんは叫ぶように言った。
俺―――ジルコンは目の前に広がるメンドゴラの海を受け入れることが出来ずにいた。
「き、昨日倒しましたよね・・・ここ・・・」
ルゼルも呆然とした様子でメンドゴラを見ている。
昨日確かにこの辺りのメンドゴラを倒した。
焼け焦げているメンドゴラがそこらへんにまだある。
なのにその場所には再びメンドゴラが大量に群生していたのだ。
「い、一日でこんなになるものですっけ・・・」
「そんなわけないだろ。
一日でこんなにミッチリ生えたら、マイソシア中メンドゴラだらけだ。」
マクトの呟きにアクアさんはうんざりした顔で言う。
ルセルさんもこくりと頷いてから言った。
「異常なのは確かだね。なんでだろ・・・」
よく見ると昨日よりは少ない様に見えるが、こうなるとは思ってもいなかった・・・
「何か原因があるんじゃないですか?
気候の変化とか、
メンドゴラの種?がばら蒔かれてるとか、
天敵となるモンスターがいないからとか」
俺は思い付いた事を全部言ってみる。
ルロクスも俺に便乗して言う。
「ん〜・・・モンスターがメンドゴラを持ってきてるとか、
何か発生装置みたいなのでもあるとか!」
「それだな。」
「そうだね、それが一番濃厚かも。」
「へ?」
ルロクスの発言を聞いてアクアさんとルセルさんが同意して言う。
言った本人であるルロクスは何のことやら分からずに、間抜けた声を出した。
俺もどれに同意したのかわからないんだけど・・・アウェルさんがおずおずと聞く。
「モンスターが持ってきたってこと・・・?」
「違う。発生装置の方だ。」
アクアさんにぴしゃりと言われる。
ルセルさんが続いて話だした。
「他の案も無いとは言い切れないけど、一番可能性が高いのはそれってことさ。
あ、ちなみにジルコンくんが出した“気候の変化”の案なんだけど、
このメンドゴラ事件を聞いてすぐに調べたんだが、ここ最近の気温に著しい変化はないし、
こんな風に一度に増えるっていうのは考えられないんだ。
何かを媒体とした召喚としか・・・」
「何かってなんなんだ?」
ルロクスの問いにルセルさんは首を横に振る。
「昨日、倒し進んだ際に、何かなかったか?魔法陣とか変な物体とか」
「見当たらなかったわよ?ねぇ」
「なかったと思いますけど・・・」
アウェルが答え、マクトも同意する。俺もルゼルと顔を見合わた後、こくりと頷いてみせた。
ルセルさんが『う〜む』と悩んでしまう。
そこでアクアさんが言った。
「昨日も聞いたが、この森には何か魔法がかけられてるってことは無いんだよな?」
「ん〜おれの家みたいに誰かが勝手に結界でも張ってなければ・・・・・・」
「勝手に・・・か。普通とは違う力をこっちから感じるんだが・・・」
とアクアさんが指差した方向は、森の奥。
「じゃああっちに何かあるってこと?」
アウェルさんが不思議そうに言ったのをアクアさんが頷きで返す。
「とりあえずそっちに行ってみますか?」
「そうだね、そうしようか」
俺の提案にルセルさんは腕を組ながら悩む仕草をしている。
俺たちはアクアさんに道案内を任せ、森の奥へと進むことになったのだった。
「マクト、どうしたんだい?」
さっきから進むにつれてマクトの表情がこわばっていくのに気付いた俺は、マクトに声を掛けた。
マクトは『あ・・・えっと・・・』と至極頼りなさ気な顔をして言う。
「アクアさんが言うのなら、あちらの方には何か凄いものがあるんじゃないかなって・・・
強い敵とか・・・」
「心配性ねぇ。いざとなったらアクアを盾にすればいいんだから。
で、眼を頂戴。」
「凄い話になってますね・・・」
アウェルさんの発言にルゼルが苦笑いをする。
そこまでほしいのかアクアさんの瞳が・・・
当のアクアさんはというと先頭に立ってメンドゴラを倒しながら、ルセルさんと一緒に前方を歩いていた。
アクアさんは聖職者とは言えど、前衛と呼べるくらいの技の持ち主だし、何かあっても大丈夫だとは思うけど・・・
それよりも後ろにいる俺達はメンドゴラを倒す必要がないわけで、だらだらと付いて行くだけになっている。
俺は一応、後方に気を付けながら歩いてはいるが、ルロクスは完璧にだらだらしていた。
「ルロクス〜周りに気を配っておけよ〜?」
「わかってるけどさ〜」
魔術師の武器であるオーブ、ゴーストアイズをぽ〜んぽ〜んと放り投げながら返事をする。
同じく魔術師のルゼルはと言うと、アウェルさんと話をしながら歩いていた。
無論、時々物音がすれば話をぴたりと止めて意識をそちらにやるところは流石だ。
マクトはさっきのように神経を尖らせてるから、だらけてるのはルロクスだけ。
「傭兵の仕事なんて、してるんだ?」
意外とばかりにアウェルさんはルゼルに言った。
ルゼルは照れながら『あ、はい』と答える。
「お給金が高いもので。
人探しの旅をしていたから短期間に高い賃金をとなるとそう言ったものになるので・・・」
「そっか。盗めばいいのに。」
「いやっ、あのっ、それはちょっと・・・」
うろたえるルゼル。
そりゃそうだよな・・・盗めばいいなんて普通言われないし・・・
「人探しなんて果てしないなぁ。
今は宝石探しだっけ?探してばっかりねぇ」
「はい・・・でもジルさんやルロクスがいるから頑張れるんです。
居なかったらきっと、心折れてたろうから・・・」
「あ〜ぁ、だれかさんにも聞かせてあげたいよ」
アウェルさんは言って前方を歩くアクアさんを見る。
アクアさんも弟さんを探して旅をしてるんだっけ。
俺がちらりと話の間に入った。
「アクアさんの探し人は見つかったんですか?」
「何処に居るかはわかったみたいだけど。
今はまだ時期じゃないみたい。」
「え・・・見つけるのに時期とかあるのかよ?」
ルロクスが不思議そうに聞く。
そこで前を行くアクアさんがメンドゴラ一匹を倒し終えてから叫んだ。
「アウェルっ、話し過ぎだ」
「何よ〜っ、あんたはいっつも―――」
アウェルさんの言葉が途切れた。
俺も意識を集中させる。
何か、いる。
しかも近くに迫って来ている・・・
「みなさんっ」
俺が茂みの方を見つめながら声をかけると、各々が戦闘体制になる気配がした。
茂みの向こうの何かは徐々に、ゆっくりと迫って来ている。
「先制、しますか?」
マクトが誰に言うでもなく問いかけると、アクアさんがそれを止めさせた。
「やめとけ。もし一般人だったら、お前の力だと怪我させかねない」
『面倒になる。』と言い切られ、マクトは苦笑いをした。
「じゃあオレが一発スペルを―――」
「ルロクス、そのスペル、だめだってば」
ルロクスが言って意気揚々と唱え出したのがどうも火のスペルだったらしく、即ルゼルに止められた。
そんなことを言ってる間に何かは真近くに迫っていた。
姿を現したのは―――
「なんだぁ、ネクロケスタじゃん」
ルセルさんが納得とばかりに言った。
そして説明をする。
「あ、このネクロケスタね、この森に随分前から住んでるやつなんだけど、
好戦的じゃないから心配しないで。
戦いをふっかけなければ何もしないから」
『見回りご苦労!』とばかりに気さくに話すルセルさん。
だがネクロケスタはひょこひょこと歩み行き、地面にへたりと倒れているメンドゴラを見ている。
そしてその目線はアクアさんのもつ剣の方に向けられ―――
ぶんっ!
突如、ネクロケスタがアクアさんに向かって杖を振り上げて攻撃を始めたのだ。
「なっ!」
アクアさんが驚きで反応が少し遅れた。
「っ!」
気が付けば俺は、とっさにネクロケスタに打撃を与えていた。
「大丈夫ですか?」
アクアさんの前にはマクトがかばうように立っている。
前を向けばネクロケスタがぱったりと倒れていた。
・・・思わずとはいえ、やり過ぎたか・・・?
「攻撃してこないんじゃなかったのかよ?」
ルロクスが言いながら、ぱったり倒れているネクロケスタへ近づく。
「ルロクス、不用意に近づくと危な―――」
「がぁあああ!」
「のぅわああ!!」
再びネクロケスタが起き上がり、近くにいたルロクスは心底驚いて声を上げた。
「もぅ・・・フリーズブリードっ」
ルゼルがさっとスペルを打ち、ネクロケスタを停止させる。
「ていっ」
今度は手加減して、俺は人間で言うみぞおちあたりに拳を入れると、ネクロケスタは再び倒れた。
「・・・結構タフなんだなネクロケスタ。」
「ふん縛っておこうぜ」
驚かされたことに腹が立ったらしいルロクスは、関心しているルセルさんの発言に反応して自分の荷物から紐を即座に取り出した。
「おれ達の調査が終わるまで縛っておいたほうが良いかな」
俺のその提案は満場一致だったが、なんとも可哀想な気がした・・・。
「どうして攻撃しだしたんだろ・・・」
意識を取り戻し、うなだれているネクロケスタを見て、ルゼルが不思議そうに言った。
「もしかして・・・メンドゴラを倒してたから復讐とか?」
「いや、今まで居なかったモンスターに元々いたモンスターが情をとは・・・」
口々に言っていると、ネクロケスタの前に座り込んでいたルゼルが『あの・・・』と俺の服の裾を引っ張って言う。
「このネクロケスタさん・・・文字書いてるんですけど・・・」
「・・・え?どれ?」
ルゼルに言われて俺達はネクロケスタの前に集まった。
ルゼルの言った通り、ネクロケスタは本当に俺達がいつも使っている文字を書いていた。
杖の先で器用に文字を書いている。しかもそれは単語だけというわけではなく、ちゃんとした文章になっていたのだ。
しゃがみ込みながらルセルさんが地面の上に書かれた文字を読んでいく。
「ん〜と・・・?
『思わず取り乱し、申し訳なく候。』」
「そ、そうろうって・・・」
アクアさんが嫌そうな顔をして呟く。
「『私めが丹精込めて育成し花々、荒らされまいと思い戦った次第にて、
願わくば荒さず退去していただきたく』
・・・っておい・・・」
ルセルさんが眉を潜めてネクロケスタを見る。
ここの誰もが気付いたことだろう。
・・・ってことはやっぱり・・・
「お前が全部悪いのかぁっ!!」
大地に杖をどんっと突き立て、ルセルさんが怒鳴った。
ネクロケスタが何故怒られているのかわからないようで、ぴたりと動きを止めている。
「え〜っとな、お前が育てている?メンドゴラが多すぎて通行人が被害にあってるんだ。
わかるか?」
「このメンドゴラ・・・育ててるのかよ・・・」
諭すようにルセルさんが言う傍らで、ルロクスが呆れたように呟く。
「『薬の材料と成りしこの花。毎年、育てるが育たず。
今年土壌改良の努力が実ったのか、これほどまでの花畑に育てあがりたり。』
だってさ。」
「土壌改良だなんて・・・そんなことができるんですか」
ルゼルの言葉にネクロケスタは反応するかのように文字を書き始める。
「『奥の一区画を耕した。』
・・・って、それだけじゃこんなんにはならんだろ・・・」
言いながらルセルさんは文字を書く場所確保とばかりに一番新しい文章だけを残し、足で大地を均し、文字を消していく。
その間もネクロケスタは一生懸命文字を書いている。
新しく出来たまっさらな大地に文章が並ぶ。
「『種がよかったのか気候がよかったのか』
・・・へぇ・・・種なんだ、メンドゴラ・・・」
ルセルさんの代わりにとばかりにルロクスが横から文章を読み、書かれていた内容に苦笑いを浮かべた。
・・・種だったんだ・・・俺も知らなかったんだけど・・・
「それから・・・っと、
『製薬の研究にて長年使いしメンドゴラ。
手持ちの材料が尽きたために製薬出来ず。
これほどまでのメンドゴラの数にて在庫としても十二分なれば、
無用に刈り取り、数を減らさないで頂きたく―――』
っておぃ、今まで居なかったモンスター増やして、住んでる仲間に影響あるとは思わないのか?」
ルセルさんが眉を潜めて言う。
俺も横から文字を読む。
「『全て刈り取る予定なれば』
・・・これを全部刈り取る気なのか!?」
「しかも一人で・・・?」
ルゼルが心配そうに言う。俺は疑問に感じてこう問掛けた。
「昨日倒した場所にもうメンドゴラが生えてるから、
全部刈り取ってもまた生えてきちゃうんじゃないか?」
俺の言葉に反応して、ネクロケスタは慌てて文字を書き始める。
「『昨日種を蒔き直した故・・・』
・・・。」
読んでルセルさんがじと目でネクロケスタを見た。
「蒔くなよ。」
ムカつきだしたらしいルセルさんは、低い声で突っ込みの言葉を言った。
「つまり、この状況を何とかしたいなら、メンドゴラの刈り取りを手伝えってこと?」
アウェルさんが苦笑いをしながら立ち上がり、人差し指を立てながら言った。
「ってことだよな・・・」
ルロクスも同意して立ち上がる。
「・・・燃やしてしまえこんなもの。」
アクアさんだけが座り込んだまま、不機嫌極まるとばかりに呟いたのだった。
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