「ルロクスっ!だ、だめじゃないかっ!」
「ええっ!だってさぁ!」
今回ばかりは穏和なルゼルもルロクスを咎めた。
俺はジルコン。
赤い布を首元と腰に巻き付けたような服を着た、れっきとした修道士だ。
道で人を助けた俺達―――俺とルゼル、そしてルロクス。
その際にお礼だと渡された石の不思議な力によって、俺達は自分達が住む世界とは別の世界へと飛んでしまったのだ。
その世界でアクアさん達に出会い、助けられ、彼等との別れの際、ルロクスが故意にアウェルさんの手を掴み―――芋ヅル式に釣れたのがアクアさんとマクトさん。
そして俺達はその状況のまま、元の世界へと戻ってきてしまったのだ。
咎められているルロクスというのは俺より年下の魔術師。
緑色の魔法衣を着ている彼は、あっちの世界で盗賊のアウェルさんにからかわれたのが腹に立ちまくっていたらしい。
「腹が立ってるからってこんなことしちゃダメだよ」
「だってさぁ」
ルロクスはルゼルの咎める言葉に反論していた。
ルゼルもルロクスとは同じ魔術師ではあるが、黒とベージュを基本とした高位魔法衣を着ており、ルロクスよりは旅の経験も歳も上だった。
歳については俺と同じくらいじゃないかと言っているけど、本人も正確な生まれを知らないらしい。
とにかくルロクスよりは確実に上の位の魔術師であるルゼルは、危険なことではないかぎり怒ることは滅多にないことだった。
・・・まぁ、おちょくられてたのはルロクスだけだからなぁ
・・・おちょくられた人でないとこの悔しさはわからないってとこだろうか。とはいえいきなりこんなことして、もしアクアさんたちが戻れなくなっちゃったらとか・・・
「ルロクス・・・」
「だってあんなにからかわれたんだぜ?
自分達も違う世界に来て困ってみればいいんだっ!」
よっぽどしゃくにさわったらしい。こんな風にルロクスが行動に出るとは思っても見なかった・・・
「すみません皆さん・・・」
俺とルゼルが謝ると異世界から来てしまった一人である、修道士のマクトは『あ、いえ〜』と逆に萎縮した声で答えた。
異世界から来た残り二人、アウェルさんとアクアさんはなにやら揉めているようだった。
盗賊であるアウェルさんは殴られた頭を手で撫でながら、アクアさんに向き直り、怒りの声をあげている。
「なにするのよっ、も〜っ!」
それよりも怒っている様子の聖職者、アクアさん。ムスっとしながら手にリカバリをかけつつ言う。
「こっちのセリフだ。何で俺を掴む!?」
「手短な場所にいた自分が悪いんじゃないっ」
無茶苦茶なこと言ってるなぁ・・・言い合いをしているのを止めるべきか困りつつ、俺はひとまず今居る場所を見回した。
見えるのは木。街道と思われる道。そして―――
「あの・・・あそこに見える町って・・・」
マクトさんがアクアさんの様子を心配しながらも、先に見える家並みを指差してこう言った。
「ミルレスですよね・・・多分僕達の世界の。」
その言葉にルゼルがじっと食い入るように見つめて確認してから、首を縦に振った。俺もこの道は見覚えがある。違う世界のミルレスかとも思ったが違う。飛ばされた時と同じ場所に見えるし―――
ここは多分俺たちの世界のミルレスの森だ。
「ってことは私達、本当に違う世界に来たってこと?!」
「ってことはオレ達戻って来れたのかっ!」
アウェルさんとルロクスが同時に叫んだ。
冷ややかな目で見るアクアさん・・・
「俺は呑気にこんなとこで遊んでるほど暇じゃ・・・」
言いかけたその言葉にいち早く反応したのはアウェルさんだった。
「そうよっ!せっかく来たんだから早く町を見ていこうよ?」
「俺は元の世界に戻りたいんだ。」
きっぱりと言い捨てるアクアさんの言葉を聞かずに、アウェルさんはミルレスへ向かって歩きだしてしまう。
アクアさんは呆れたと言わんばかりのため息をついた。
それを見てルゼルが小さく笑い、アクアさんに話しかけた。
「帰り方はルロクスの持ってる宝石でしょうから、
観光するのもいいんじゃないかなぁと」
『まぁ確実じゃないですけど』とルゼルが苦笑いしながら言う。
そこで気が付いたらしくアクアさん。
ずいっとルロクスに詰め寄ると、無言で掌を出す。
そして一言、言った。
「石。」
飛ぶための石のことだとすぐにわかったが、ルロクスはにやっと笑って見せる。
「ミルレスに行ったらなっ?」
と、言ってからにかっと笑って見せた。
・・・か、観光しろってことか・・・?
俺が思っているとルロクスは話を続けた。
「それにさ、それ、本当にアクアんとこの世界へ戻れるか謎じゃん?
だから詳しそうなやつに聞いてみてからのほうが良いと思ってさ。」
「詳しそうなやつ?」
アクアさんが首を傾げる。
あぁそうか・・・そういうのに詳しいかもしれない人で思いつくのは一人しかいない。「そいつが今、ミルレスで仕事してるだろうから、
邪魔しにい―――えーと、会いに行くほうがいいかなって」
「もっともらしい言い方してるが・・・
お前達が自分達の世界に戻ってこれたのを考えれば、
あの石がリコール媒体なのは間違いな―――」
「ほら〜っ!アクアっ、早く早くっ!」
「置いてくぞ〜!」
アクアさんが自論をしゃべっている間にルロクスとアウェルさんは遠くに、ルゼルとマクトはその後ろに続いて行ってしまっていた。
アクアさんが頭を抱える。
「あ、アクアさん・・・いきましょう?」
観光したい人達には勝てそうもないし・・・俺がそう声をかけると、仕方ないなといった様子でアクアさんは歩き出したのだった。
不満そうなアクアさんを連れて、俺達はミルレスの町に来ていた。
「・・・堂々とミルレスに入ったのって初めてかもしれない・・・」
ルゼルがぼそりと言った言葉にアウェルさんが面白そうに聞いてくる。
「なに?大人しそうな顔をして、結構悪いことしてたわけ?」
「いえ、そういうわけではないんですけど・・・ね」
歯切れ悪く言うのに対して、アウェルさんは『ふ〜ん』と少し不服そうな声を出した。でも何かしら納得してくれたみたいで、それ以上は追求してこないようだった。
ルゼルも俺達も、この町では大変な目にあっている。
こう、のんびりとこの場所へ訪れることが出来きたのは、一難去った証拠とも言えるだろう。
まだまだやることはあるけれど・・・
「ルセルさん、探さなきゃな」
「さっき言ってたその石に詳しい方ですか?」
俺が言うとマクトは不思議そうに問いかける。
「あぁ。この町で神官長の補佐をしているんだけど・・・」
「神官長補佐!?じゃあ宝石持ってるわよねっ!」
アウェルさんが嬉々として問いかけるのを見て、ルゼルが苦笑いした。
「アウェルさんが思ってるような良い物、
ルセルが持ってるわけないですから・・・」
その言葉にアウェルさんは『何だぁ・・・』と至極残念そうにする。でもそこでしょげないアウェルさん。
「なら神官長は宝石持ってるわよね?きっと!」
意気込むアウェルさんにアクアさんは心底興味なさそうな声でこう言った。
「役人に捕まっても、置いて帰るからな。」
アクアさんが釘を刺す。
それを『しかたないわね、やめとくわよ』と言って返すアウェルさん。・・・というかアウェルさん・・・盗む気でいたのか?!
「犯罪はやめとけよ〜?
オレ達にまで被害が来たらたまったもんじゃないしさ」
「ルロクス・・・被害がというより犯罪自体を止めてくれ・・・」
俺は思わずルロクスにそう突っ込んでいた。
「売ってるものって、私達のとことあんまりかわらないなぁ」
期待して損したとばかりに溜め息をつくアウェルさん。
ミルレスの町並みとお店とを見て回っていた俺たちは、まだ入っていなかった薬屋へと足を向けた。
その薬屋にも目新しいものはそれほどなかったらしく、少し残念そうにしている。
「ちょっとだけ違うくらいだな。
ま、俺の世界と変わりない町ってことだな。
これだけしかないことだし。」
言って、見ていた薬を手に取る。
それを色んな角度から見ながら話を続けた。
「ヘルリラG40があるあたりは、俺達のミルレスとは違うな」
『興味ないから作る気はさらさらないが』と付け足して言う。
そっか・・・そう言えばアクアさん、格闘出来る聖職者だったっけと今の言葉で再認識する。
「でもどうだろうな。
一応ヘルリラG40と名は打ってるが、高度な技術を要する薬だし、これは偽物とか有り得そうだ」
店主がいるというのに堂々とそう言うと、疑わしい目でその薬を眺めた。
ふいに、その肩に誰かが手を載せた。
「ここのヘルリラG40はちゃんとした方が作っていましてね。一人で作成していらっしゃるので、多くは作れないのです。
商品が並んでるのを見れただけ、お客様、運が良いですよ?」
何か聞いた声のような・・・?
その声の主へと振り返り―――
「る、ルセルっ!」
「・・・何者だ。」
聖職者のレベル91の服と言われる、フリストマジックフロックを着てにっこりと笑みを浮かべている茶色髪の青年。
その青年を見てルゼルは名を呼び、アクアさんが至極不審そうに問いかけた。
「すみません驚かせてしまいましたか?
わたくし、この町で神官長の補佐をしておりますルセル・T・ナータと申します。あ、ヘリナさん、お邪魔しております」
ルセルさんは振り向き、店主であるヘリナさんに軽く会釈してみせる。
その様子を見て、さらに胡散臭そうだとばかりにアクアさんはルセルさんを見る。
ルゼルが不思議そうにルセルさんに向かって問いかけた。
「ど、どうしてここへ?仕事中じゃ?」
「ルゼ達の姿が見えたからね、ちょっとだけ脱け出してきたよ」
いたずらっぽい笑みで返すルセルさん。
「それで大丈夫ならいいんだけど・・・」
ルゼルが心配そうに言っていると、アウェルさんがすっとルセルさんに近づき―――
「なさそうね・・・」
と一言。
・・・なにがなさそうなんだろう・・・
「こんにちは。
この町は初めてですか?
初めて旅をされる方々ならミルレスのご神木は驚いたことでしょう」なにかトゲの有るような言い方でルセルさんが言う。
それにこの笑みは何だか怖いような・・・
「さぁさぁこちらへどうぞ。
ミルレスの町をご案内しましょう」
とアクアさんの腕を掴み、ずんずんと引っ張って行ってしまう。
アクアさんが嫌だと振りほどいているがルセルさんは何のそのといった様子で再び掴んで引き連れようとする。
「ルセル・・・あれ絶対、嫌がらせしてる・・・」
何かを感じ取ったらしく、ルゼルはうんざりした顔をしながら言ったのだった。
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