<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第十三話 宝をめぐる戦い



一件落着したかと思ったところで、どこからか大きな声が上がった。
それは歓喜の声のようだった。
「な・・・なんだ??」
「!?」
俺たちが疑問符を浮かべていると、ドランさんは何かに気づいたのか、大きく開いた穴を振り向き見た。するとそこから作業員らしき、土まみれの男が顔を出し、嬉しそうにドランさんを呼んだ。
「ま〜す〜た〜!でました〜!出ました!お宝ぁ〜!」
「これでマスターの夢、かないますね〜っ!」
斜め下へと伸びる大きな穴。その穴の中に男が嬉しそうに笑っている。
横からのっそりと顔を出したもう一人の男はさらににかにかと笑顔を浮かべている。
そう、彼等は地上に居た俺たちの状況をわかってはいなかった。
レギンさんが一番速く反応をした。
「あーっ!それっ!ずいぶん昔に盗まれた“輝宝石”じゃないの!?
なんでそれがそんなとこに?!」
「はーっ?しらねーよー?
おれたちぃ、お宝が埋まってるって言われたからここら辺掘ってるんだー」
「埋まってるって言われた・・・?」
「マスターが宝の地図を持ってるんだー
だからマスターが宝知ってるんだー」
「おいっ!いらないことを言わんでいいっ!」
ドランさんが怒鳴って制止するものの、その作業員二人は全く状況を理解する気がないらしい。レギンさんがちらっと横から問いかけた言葉を律儀に答えていたりするくらいだ。
とにかく二人はドランさんにお宝と言っている物−−−“輝宝石”を渡したい一心のようで、ひょっこりとその穴から出てきててこてこと全く速くない足取りでドランさんに向かって走っていった。
「っ!おまえら早くそれを!」
ドランさんは下を小さく鳴らした後、作業員二人に向かって急かすように言った。
そしてドランさん自身も二人に向かって走っていた。
ことを察しないわけがないアイゼンさん。たっと軽く大地を蹴ると、二人の持っている物に向かって走り出した。
そしてその走りは緩むことなく、作業員の二人に向かう。
だが動いていたのはアイゼンさんとドランさんだけではなかった。
ヒュンッ
風を切る音が聞こえた時にはすでに、アイゼンさんは走っていた方向から逆へと戻るように飛び逃げた。
走り込んでいたはずの場所にムチの先が走る。そしてそれと同時にレギンさんが自分の放ったムチを追い抜かす形で走り込む。
ムチをそのまま後ろに引きずって走る状態からすいっと自分へと寄せ、次の瞬間には作業員二人に向けて繰り出した。
無論、その動作は走ったまま。
「ひぎゃっ!」
「わぁあーあー」
あまりしまりのない声で作業員二人が悲鳴を上げた。
そして簡単に“輝宝石”を手から落とす。
レギンさんは二人をたたいた際に振り切った腕をもう一度左へ振ると、ムチは細かい動きを見せながら動いた。
まるで生き物のようにムチは宝石の周りの砂を跳ね上げ、宝石自体を叩くことなく宝石を宙に舞い上がらせた。
そこからムチは再びしなり、今度は宝石の底をはじくと空高く跳ね上げさせる。
はじかれた宝石は俺たちのいる方向へと飛ばされて来た。
「わっ!わわっ!」
ルゼルが慌ててその宝石を掴もうと手を伸ばした。
「よっ・・・とととっ」
手の上でお手玉しつつも受け取ると、その途端−−−
コウゥン・・・
「!?」
「え?あ・・・」
ルゼルが手にしたその“輝宝石”が光りだし、その光はルゼルをも包んでいく。
さっきまであんなに大人しかったチャウのイザベラがルロクスの傍でぎゃんぎゃんと鳴いた。
「な?どういうことだ?!」
ドランさんも騒いだ。
俺は事の異常さに気づき、慌ててルゼルの元に走った。
頭の中で一瞬よぎったのはリジス邸に捕まったあとの・・・あのときのルゼルの姿。
でもこの感じ・・・その場所以外でも感じたような・・・
「ルゼルっ!宝石を手離せっ!」
俺は戸惑っているルゼルの手から宝石を取ろうと駆け寄ったとき、横から風を切る何かが走った。
その風に気づいたのか、ルゼルは受け取った宝石を俺に投げる。
不意に投げられた宝石に、俺の気がそちらに行ったときにはすでに−−−
「レギンのムチ技、俺も使わせて貰うことにした」
「わっ!」
アイゼンさんのムチがルゼルの体を捕らえ、ぐいっと引き寄せられた。
突然のことでなす術もなく、ルゼルはアイゼンさんの傍までたたらを踏みながら寄ってしまう。
そして自分の近くまで寄ったルゼルをしげしげと見ながら『ふむ』とひとこと呟いた。
「“増幅”・・・か?
おもしろい。」
「あのっ!離してくださいっ」
もぞもぞとムチを解こうと動くルゼル。
だがアイゼンさんのムチは頑丈に巻かれ、ルゼルを開放しようとはしない。
アイゼンさんはそんなルゼルを見ながらこう言った。
「お前、自分の力を理解ってるのか」
「え・・・」
アイゼンさんに問われて、ルゼルは眉を寄せる。
この人・・・ルゼルの力の事、なにか気づいたのか・・・?
頭の中でリジスの顔が再び過ぎる。
アイゼンさんはもがくのを止めさせるようにルゼルを巻いているムチをさらにぐいっと引き寄せた。
そして−−−
「レギンと炎竜たちを相手にするのは避けたいな。
明日の昼過ぎ、その“輝宝石”とやらを持ってルケシオンダンジョンの入り口に来い。
それまでこいつは預かることにする」
「ちょっとアイゼンっ!」
「俺も、手段を選んでいる暇はないんでな」
言うとレギンさんの制止する声も聞かず、ルゼルの方を抱え込むように掴むとアイゼンさんは片手で素早く記憶の書と石を取り出す。
「待てっ!る、ルゼルっ!」
「ジルさ・・・!」
慌てて駆け寄ったものの、光に包まれてルゼルの声は途切れ−−−
光とともに二人の姿が消えてしまった。
さっきまで吠えていたチャウのイザベラは再び大人しいチャウへと戻っていた。