<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第二章 ミルレスの傍のわが家



第二話 求めて旅立ち



オレは、いままで疑問に思っていたことをルセルに問いかけていた。
オレが次々言う疑問に飽きること無く、ルセルは答えを返してくれていた。
時には『わからない』という答えが返ってくることもあるけど、なんでも知ってそうなルセルがわからないんだから、と妙にオレ‐‐‐ルロクスは納得できていた。
「町についてはねぇ…いろいろ地殻変動とかが起きてるから…
町一つ消えてしまってたり、道が分断されて行くことが出来なくなってる場所だってあるんだよ?
そうそう、ミルレスは御神木の上に立っている町だけど、前はもっと広い町だったんだよ〜」
「広いって?」
「ん〜とね、東西に橋があったんだけど今はそこが地殻変動が原因で腐ちてしまってね。
今では外の町へと繋がってる中央の樹の上だけをミルレスの町と呼んでる。
東西四つの橋からいける場所にいた住人は、記憶の書で待避したんだけどね。」
「へぇ…そんな大変なことがあったんだ…」
オレが相槌を打つと、ルセルは腕を組んでいぶかしげにオレを見た。
「へぇ〜って、スオミもなんか地殻変動で道が途絶えたんじゃなかったか?
お前の住んでた町だろ?知らないわけじゃないだろ?」
「え?う〜ん…」
思いを巡らせてみて気が付いた。
あぁそういえばスオミ町の東から外に出る道があったけど、何か起こって封鎖されたんだっけ。
あの時は町中どたばたしてて何も聞けなかったから、てっきりオレは“どこかの誰かがスペルを使って道を壊したんだ”とばかり思ってた。
「にしても疑問をもつことはいいことだ。
旅をするうちにいろんな知識が入ってくるからなあ」
「うん、そうかも」
オレは机の上に置いてあったカップを手に取る。
それを見てルセルが思い出したように指を差して言った。
「このごろ、古代の言葉が一般的になってきたね〜」
「古代の言葉?一般的にって例えば何があるんだ?」
「その“カップ”だって、古代の言葉って言えばそうなるけどね〜
“スペル”だって英語で言ってるだけで、魔法って意味だし。
聞くとこによると、そんな“言葉カブレ”が増えたとかなんとか」
ルセルが何故か嫌そうに言う。
それを見つめながら、オレは最後に取って置いた質問を口に出した。
「なぁ」
「ん?」
「ルゼルの力は、何なんだ?」
ルセルが押し黙る。ルセルにもわからない‐‐‐なんてわけはない。
絶対、ルセルはわかってるはず。
そしてオレも薄々は…いや多分オレが思ってることで正解のはずだ。
だがルセルはわざとらしくこう言ったのだ。
「きっと、世界を守る五つの属性の神様の力なんじゃないかな〜」
「嘘つけ…」
オレがぼそりと言った言葉が時を止める。
「世界を守るのは五つの属性の神なんかじゃない!」
「…なぜそう言いきるんだい?ルロクス」
オレは何故かルセルのその言い回しに苛ついていた。
いや、苛ついてるのはずっとだ…
頭の中で声が聞えだしてからずっと…
今は聞こえないけど…でもあの時…
リジスとの戦いのときに…
オレは矢継ぎ早にルセルに言っていた。
「今知られてる神々は世界を作り出した神じゃない。
五つの属性の神は今ホントにこの世界を見てるのかどうかも怪しいもんだぜ。」
「る、ルロクス…?」
「それにルゼルの力はそう言う感じのものじゃないんだろ?
あのリジスが作った魔法陣には、五つの属性の石があった。
ルセルもこう言ったよな?それらまとめる石が必要だって。
リジスがそれをルゼルだって−−−」
「わかった!」
怒鳴るルセル。
そして深くため息をついた。
「ルロクス、お前いろんなとこ気が付きすぎだよ……」
片手でこめかみを押さえている。オレはじっとそれを見ていた。
「ルゼルは…まとめる石と同じような力を持っている。おれはそう考えてる。
五つの属性の石をまとめることができる属性…」
「善と悪の神の力とか言ってまたはぐらかさないよな?
あの神々はそんな創造的な力はないはずだぜ」
オレが突っ込みをいれると、ルセルは明らかに不審そうな顔を見せた。
「お前…そんなことどこで気付いた…?
というよりも、どうして善と悪の神じゃないと言い切ることができるんだよ?」
「…」
オレはルセルの問いには答えず、この部屋に唯一ある窓の外を見やった。
ここからでは見えないけど、外で今もジルコンとルゼルが戦闘の際の技の鍛錬をしているんだろう。暫くの間ルセルは真剣な顔付きでオレを見つめていた。
だがそれも諦めのため息と共に変わる。
「…お前は頭が良い。好奇心も沢山あるだろう。
でも、だ。おれの二の舞にはなったら駄目だ。だからそこまでの知識は要らない。
教えたくはないんだ。わかってくれ」
「ルゼルは何の力を持ってるんだよ。
オレらはそれを知らずに今後も旅をしていけってことか?」
「ルロクスっ」
「ルゼルはっ!
今知られている神とは違う、なにか違う神の力を手にしている!
違うか?!」
思わずオレは怒鳴っていた。
怒鳴る必要もないし、オレは相手が本気で嫌がってることをすることも、言うこともしない主義だ。でもオレは怒鳴ってしまっていた。
しまったと思った時には、ルセルは書棚に歩き出してしまっていた。とにかく謝らなきゃ。
でも何について謝るんだ…?
思考がなぜかまとまらないままでいると、ルセルはオレの目の前に本を差し出してきた。
そしてその本にある、一ページをオレに見せる。
そこに書かれていたものは−−−
「……読めねぇ」
オレは眉を潜め、げんなりした。明らかに見たことのない文字がびっしりと並んでいる。
読めるわけがない。
そのオレの言葉に毒気を抜かれたかのような顔をしたルセル。
次の瞬間にはくすくすと笑い出した。
「やっぱりそこまでは無理だよなぁ。何かちょっと安心した〜」
言って、ある一文を指でなぞりながら語り出す。
「古代メント文明の遺物である本−−−これはその写本だ。こう記述されている。」
 “昔…光の神、闇の神。双方の力を使い、恩恵を得ていた。
  だがその力は強大なものだった。
  そのため、我々人間は神の力を違う力へと変え、
  それによって力を自在に、かつ扱いやすいものとすることができたのだ。”
「“その力を『善の力』『悪の力』と呼ぶ。”」
「…善と悪の力の元…光と闇の力か。」
「そ。ルゼルはたぶん善と悪よりも強大な力であろうものを潜在的にもっている。
血脈かなとは思うんだけど」
ルセルはその一文だけ語ると本をぱたりと閉じた。そして真剣な顔付きを再び見せる。
「でもなぜルゼルの力のことを言い当てた?」
「じゃあなんでルセルはわかったんだよ?」
「おれはリジスがやってた研究が、
古代メント文明の人々がやってたことと同じだなと思ったからで−−−
ルロクス?今日のお前、らしくないぞ?」
ルセルが心配そうにオレの顔を覗き込む。
なんでオレがこんなにイライラしてるのか、自分でもわからない。
でも知りたい。知っておきたい。
「ルゼルのこと、怖くなったのか?」
「え…?」
思いもよらない言葉を聞いて、弾かれるようにオレはルセルを見た。
見ると、まるで自分が嫌われてると言われているみたいな顔をして…
「いや!そうじゃないんだ!ただなんか落ち着かないって言うか…意味もないんだけど…怒りっぽくなっててさ…怒鳴って…ゴメン」
そんな顔を見たくなくって慌ててオレは謝ると、ルセルは近寄ってきてオレの頭を撫でた。
「それならいいんだ。ただ…無理だけはするなよ?おれもルゼもジルコンくんも、スオミにいるっていう君のお姉さんだって心配するんだから。な?」
「うん…アリガト」
オレは少しだけ落ち着いたような気がした。

「次は、ルケシオンの町にいこうかなって思ってるんだけど」
「そっか。あの町は盗賊の町だからなぁ。
宝石についての情報は腐るほどありそうだな。
…簡単には教えてくれなさそうだけど。」
ルゼルが次の目的地を告げた際にルセルが返したのはその言葉だった。
まぁ…俺−−−ジルコンがルゼルと出会ったのは、そのルケシオンの町のすぐ近くにあるダンジョンの奥。海賊の要塞の中にちょっと入った辺りだったから、あの町の雰囲気はわかるけど…簡単に言えば、路地裏を歩いたりでもしたら、身ぐるみ剥がされそうな、そんなところだ。
ルゼルも知ってるとは思うけど、あそこで情報聞こうとすると、いくらあってもお金が…
「ルゼ〜?所持金は?」
ルセルさんがそう問いかける。
やっぱりルセルさんも金銭面のことは心配だったか…
ルゼルが苦笑いを見せると、ルセルさんは『やっぱりね〜』と言いながら居間から出ていく。
もしかしてと思っていたのだが、戻ってきたルセルさんの手には質量のある袋があった。
ひょいっとルゼルに手渡す。
「あんまり多くなくてごめんな。
宝石のひとつくらい、買えるくらいの金があればみんな楽できるんだけどね…
今のところ、それっくらいしか稼げなかったよ」
「それくらいしかって…その袋、すごいいっぱい金入ってねぇか?」
ルゼルが受け取った袋を横から見て、ルロクスが心底いぶかしげに言う。
それを見てルセルさんはふるふると首を横に振った。
「いや…1500万くらいしか貯まらなかったよ。
ルゼたちが帰って来る前に5000万くらい、稼いでおきたかったんだけど」
『そんなにうまくはいかないね〜』と笑って言う。
俺は思いもかけない金額に眩暈がした。
「ルセルさん…こんな大金いいんですか?」
「いいのいいの〜
あ、言っとくけど、それ、光服作って売ったお金だから。
安心して使ってね?」
「ルセル…ありがとう…」
ルゼルが大切そうに袋を抱き締めると、ルセルさんはにっこりと笑った。
「仕事が一段落したら、必ずおれも手伝いに行く。
それまで…三人とも、くれぐれも無理だけはするな。」
「わかりました」
俺がそう答えると、ルセルさんは俺たちに命一杯の笑みを見せてくれたのだった。


「ウィザードゲートで飛びます。いいですか?」
出発の日。ルセルさんに別れを告げながら家から少しだけ離れた場所でルゼルはそう言った。
ルセルさんの目の前でスペルを使っても良かったんだが、なんかそれもそれで寂しいかなと思った上の配慮だった。
ルゼルのその呼びかけに俺とルロクスがこくりと首を振る。
「オレもウィザードゲート使えれば良いんだけどなぁ…」
「ルロクスは賢いからすぐに覚えるようになるよ」
ぼやくルロクスを見て笑いながら言い、ルゼルがルロクスの手を取る。
ルロクスも俺の手を取り、ルゼルを見てこくりと頷いた。
「行きます。ルケシオンへ」
ルゼルと出会った場所へ。宝石の情報を見つけるために。

だがルケシオンの町は俺たちが思っているほど、甘くはなかったのだ。




第二章 ミルレスの傍のわが家  完。