「夜盗もそうだけど、この子は女の子の姿でいたら危険なんだよ。」
ルゼルにこの場所がミルレスの町だということを言うと、ルゼルは悲しそうな笑みを見せながらも『ありがとうございます』と言った。
そしてルゼルを知っているような女性が働いている宿屋の部屋だということを伝えた。
一通り話してからルロクスは下の階にいるはずの宿屋の女性を呼びに行き−−−
そして開口一番、女性が話したのはそれだった。
「危険?ルゼルが女の姿じゃ危険なのか?」
“危険”。さっきもその言葉が出てきた。ルゼルをこの部屋に寝かせるように言った時も、この女性は『他の部屋じゃ危険だわ』と言っていた。
「危険って…ルゼルが誰かに狙われているんですか?」
セルカはルゼルを狙っているというより、自分の周りに近づいてきたものにはを攻撃を与えるというような感じだし、
他に誰かに狙われているような節は今まで見当たらなかったんだが…
「わからない…か…お前たちはあの噂話には興味ないんだねぇ」
「噂話?」
「アルシュナさんっ」
ルゼルが女性に向かって咎める声を出した。
その声にも話をやめることも無く、ルゼルがアルシュナと呼んだその女性は話を続ける。
「お前さんたち、この町から消えた探し人の女の子二人を知ってるかい?」
「アルシュナさんっ!」
「莫大な報奨金がかけられている家出人探し…
一人は、青い髪でセルカっていう女の子。
そしてもう一人は−−−」
「アルシュナさん!もう言わないでくださいっ!」
ルゼルが悲痛な声を上げる。
「もう…言わないで…」
ルゼルが窓のほうに目線をやりながら言った。
「もう一人が…ルゼルなのかよ…」
むちゃくちゃな金額が掛かっている家出人。ベルイースさんが言っていた、まだ捕まっていない二人の女の子。
その家出人が…ルゼルとセルカさん…!!
アルシュナさんは辛そうな顔をするルゼルの手をそっと握った。悲しそうにルゼルを見ながら諭すようにこう言う。
「ルゼルちゃん、私はこの子達ならお前のちからになってもらえると思うんだ。
私は、力になりたい。でもまずは、どうしてルゼルちゃんがあの隠れ家から出たのかを知りたいの。
今まであったこと、すべて…教えてくれる?」
「アルシュナさん…」
そむけていたルゼルの瞳がアルシュナさんを映す。少し目線を落とした後、その瞳はこちらを向いた。
「ジルさんとルロクスも…聞いてて…くれますか…?」
それでもおずおずと聞くルゼルに、ルゼルらしいなと思いながら、俺とルロクスはこくりと頷いて見せた。
「小さいとき、セルカと会ったんです」
ルゼルはそこから話を切り出した。
「どこかの部屋の一室に僕は居ました。ずっと一人でいたんだと思います。
時々、白いベットのある違う部屋に行くことはありましたけど、それ以外の場所には行くことは無かったんだと思います。
聖職者の人なのかな…そんな人がいて、僕はその部屋の真ん中にあるベットに寝て、検診してもらって、お薬貰ってたりしました。
あやふやな話ですみません。」
『なにぶん、小さいときの記憶なので…』と苦笑いするルゼル。
俺たちは真剣にルゼルの話に聞き入っていた。
「その部屋で、僕はセルカと出会ったんです。僕が…多分5歳か6歳か…それくらいのときに。
セルカは初めから僕にすごく優しくしてくれて、僕はセルカの事をおねぇちゃんと呼んでいたくらいで…
本当に楽しかったんです。」
嬉しそうに笑みを見せるルゼル。だがその笑顔がふっと掻き消えた。
「何時の日だったか…珍しくセルカが夜に僕のいる部屋にきて、『一緒に逃げよう』って言ったんです。
その日僕は体調が悪くって、ベットから起き上がるのも、検診してもらうために違う部屋に行くのも、
とっても辛かったんです。でもセルカが真剣な顔をして言うから、僕はセルカに付いて、その部屋から出たんです。」
「そう…それでセルカちゃんと一緒に居たのね…」
アルシュナさんが深いため息と共に言う。
いろいろ合点がいったのだろう。『そういうことなのね…』と言って何か考えている。
「アルシュナさんの紹介で家に匿ってもらって…でも追ってくる人はいっぱい居たみたいで…
でも匿ってもらったその家の主人のお陰で、ずっと無事で居られて…
でもある日…丁度僕とセルカの二人になったときに…追っ手が来て…
僕達を殺そうとしているみたいでした…
僕達は森を逃げ回って…」
そこでルゼルの声が震える。何かを耐えるようにぎゅっと目を瞑った。そして閉じた瞳のまま、言う。
「僕が気が付いたときには…セルカが…その追ってきた人を…殺して…
その後すぐに僕の傍から離れて行って…わけがわからなくって…
どこかへ行ってしまうなんて思っても見なかったことで…とにかく追おうって思って…隠れてた家から出たんです。
でも、僕が追わなきゃいけないことだって思ったんです。
今もそれは変わりません。
すみません…でした…」
そう言って言葉を詰まらせる。
俺とルロクスは、不安げにアルシュナさんを見た。
ルゼルはぽつりと呟いた。
「今、僕が捕まったら…セルカのこと…どうすればいいんでしょう…」
涙目になったルゼルの瞳は、戸惑いに揺れている。
その瞳を見てアルシュナさんはそっと柔らかい微笑を見せた。
「そんなに心配すること無いわ。
この町でルゼルは『手配中の女の子』だと思われなければいいことだし、いろいろツテを使ってみるから。ね?」
ルゼルに言うと、俺たちに向かって首を縦に振った。
励ませってことか。
「大丈夫。俺たちはルゼルを守るよ」
「そうそう〜だから安心しろよ?なっ」
「…ありがとうございます…」
また泣き出してしまいそうなルゼルを元気付けるため、しばらく俺たちはたわいも無い話をした。
アルシュナさんに夕食を用意してもらって部屋で食べた後も、ルゼルが眠たそうな雰囲気になるまでずっと話をして過ごしたのだった。
|