まだ消え去ったままのドレイルが気になる。
ふぅっと息をつき、それからくるりと振り返った。
多分、後ろに居る。
インビジブルというスペルで気配まで消しているが、多分、こっちの方向に居ると感じた。
ルセルさんも俺と同じ方向を向き、わざとらしくこう言い始める。
「あ〜〜〜〜〜〜〜ぁ〜〜〜〜〜〜〜全く〜〜〜〜〜〜〜
前襲ってきた時といい、今といい、姿と気配を打ち消して不意打ちばっかりっ!
ひっきょうな技使ってっ!せーせーどーどー戦いやがれってぇんだよ!」
ルセルさんが怒りにまかせたような発言をする。
それが挑発だとわかった俺は、
「姿を隠さないと相手できないわけじゃないんだろ?!」
と、ルセルさんの作戦に便乗して怒鳴ってみた。
姿を消されている状態じゃ、攻撃しようにも、防御しようにも、対処できやしない。
暗殺者で名の売れているらしいドレイルが、はたしてこの挑発に乗ってくれるか…
ドレイルは暫く無言だったが、不意に姿を表した。
「そうだな。姿を隠す必要もないか。
久しぶりに骨のあるような奴を目の前に、楽しまないのも馬鹿ってぇもんだよな」
くくくっと下卑た笑いを浮かべる。まるで二流暗殺者みたいな、下品すぎるほどの反応。
だが、ドレイルの強さは気配から察することが出来た。
ドレイルは強い…
ドレイルは目の形を変えないまま、にいっと口元に笑みを作った。
そして力む様子も見せずに、俺に向かって走り出す。
即、防御体制を組む俺。
「今まで苦労したさ。普通の賞金首なら、戦力になるとか言って雇う奴は居やがるが、
俺みたいに名前と実績が売れまくってるようなのは、雇い主が怖がって雇おうとはしねぇ。」
ざんっと細かい動きでダガーを突き出してくる。
とっさに右へずれる事で避ける俺。
ドレイルはふらつくことも無く、再び攻撃を仕掛けながらも話を続けた。
「が、リジスは好き好んで俺を指名してきた。
まあ、盗賊ギルドからも追われてたから雇われることにしたんが…
ほんっとミルレスは居心地がいいぜっ。
にこにこバカっぽい笑みを浮かべてるだけでみぃ〜んな信頼しやがる」
笑いながらさっきよりも素早く、瞬撃を繰り出す。
「くっ!」
避けたはずの左腕に赤い筋が何本も浮かび上がる。
「水と空に住まいしせいれ‐‐‐」
「そうは行かないよ。おいっスペリアっ」
横から援護しようとしたルセルさんの声に気づいたリジスは、誰かを呼ぶ。
すると森の中から槍のような光がルセルさんへと真っ直ぐに走った。
「っくっ!!」
直撃してたたらを踏むルセルさん。
森の中から姿を現す人‐‐‐
「この前逃げるときマジシャンスローかけられた時点で魔術師がいるとは思ってたが…
女魔術師だったとはな、リカバリっ」
自分の横に走って移動してきてルセルさんは、手早くスペルを発動させた。
体に出来た無数の傷が一瞬で消え去る。だが、ルセルさんは発動したスペルの効果も見ずに俺の側から離れていった。
そう、この間も俺はドレイルの突き刺す攻撃を受けていたのだ。
せっかくルセルさんがいやしてくれた肌に再び赤い筋が浮かぶ。
避けているはずの俺の体に傷が増えていく。
「なんで?!避けてるのにっ!」
俺の後方でスペルを唱えていたルロクスが騒ぐ。
素早い動きのドレイルを追うことができず、唱えていたスペルを発動させられないまま、攻撃されている俺とドレイルを交互に見て悔しそうにしている。
俺はドレイルの繰り出す攻撃の合間を縫って、指を差した。
「!!りょ〜かいっ!ウィンドブレードっ!!」
ルロクスが俺の意図に気付いてスペルを発動させる。
目標は‐‐‐スペリアという女魔術師!
「…っ」
スペリアはすっと森の奥へと入り、空から迫り来る風の刃を避けた。
「ルロクスっ!ルセルさんと一緒にスペリアとリジスを!」
「えぇっ!二人もかよっ!女だけで手一杯だぜ!」
「文句言ってても始まらないよ、ルロクスくん。
まずスペリアの後方攻撃を食い止めとかないと、ジルコンくん、死ぬよ?」
応戦で必死な俺を置いて、ルロクスとルセルさんが楽しそうに言う。
…というかルセルさん…さらりと酷いこと言わなくても…
ルロクスは納得したのか無言になる。
セルカさんも何か結界みたいなもので捕獲されているようだし…やっぱり戦力は俺とルロクスとルセルさんだけだ。
リジスが動かないのが気になるが…相手は経験をたっぷり積んだような暗殺者2名。
ルゼルが動けない今、自由に攻撃できる魔術師はルロクスしか居ない。
魔術師は魔術師で何とか対処してくれ、ルロクス…っ。
心の中で祈るように呟いた。
「今の話でいくと、俺の相手はやっぱりお前か」
やりとりを聞いていたドレイルは一旦俺から距離を取ると、にやりと笑いながら手にしているダガーの刃を舐めた。
「お前、殺し甲斐がありそうだ。」
その仕草に独特の殺気を感じる。
再びドレイルが走りこむ。
その瞬間だった。
「フリーズブリードっ!!」
蒼い光の珠がドレイルに向けて放たれた。
「なっ!くっ!」
足に直撃し、ドレイルが動きを押さえられて苦痛の声を上げた。
今のスペル攻撃は−−−
「ジルさん!こんな人たち相手にするのは無理です!逃げてください!
きゃうっ!」
「ルゼル!」
スペルを放ったルゼルを見てリジスが怒りを露わにすると、首元を掴みかかった。
首をしめられるような状態のルゼルが苦しそうに息を吐く。
「何も知らないただの子供のくせに生意気なことをしよって…!
セルカなしでは生きていけないようなそんなやつが私に刃向かうなど、許されると思っているのか!!」
「っく…ジルさん、お願い…逃げてください…っ!」
「そんなことできるわけないだろ!」
俺は停止させられているドレイルを気にしながらもルゼルに怒鳴った。
このままルゼルが掴まったら…ルセルさんが考えていた最悪の行く末−−−人体実験にされてしまうことは目に見えて分かる。
なんとしても、この状況から皆を連れて逃げ出さないと…
この暗殺者二人を倒せばルゼル達を助けられると思ったんだが…
二人倒すこと自体、無理だと判断した俺は、少しでも掴まっているルゼルの傍へ走り出す。
「ジルコン君は頭が悪いと見える。
デスメッセンジャーであるこのセルカDがどうして捕まったままなのか、考えることは無いのかね?」
「え?」
「ジルさん、来ちゃだめですっ!!」
ルゼルの声ににやりと笑ってから、リジスが何かを呟く。
その言葉と共にルゼルの足元から再び光が広がりだし、ルゼルを包んで球体を作り出した。
それは今、セルカさんを捕まえている球体と同じものだった。
「そうら、フィア?捕まえたよ?」
そのルゼルを囲んだ光の球体をリジスが嬉しそうに撫でる。
ルゼルが眉を歪ませる。
俺が駆け寄ろうとするより早く、ルゼルを閉じ込めている球体の中に小さな光が現れる。
「ジルコン君、セルカDが逃げられない理由、フィアの球体でわかりやすく教えてあげよう。」
言うと同時に光が球体の中で動き出す。
ゆっくりな動きではあるが、球体の壁に当たるとまるでボールのように跳ね返り、また球体の壁に当たるというのを繰り返している。
そしてその光は狭い球体の中、逃げることも出来ずにいるルゼルの体に当たる。
ルゼルの息を呑む声。そして−−−
「っああっ!!」
「ルゼル?!どうしたんだよ!おいっ!」
ルゼルの悲鳴にルロクスが声を上げた。
俺たちの様子を見てリジスがにやにやと笑いながら説明を始める。
「わかっただろう?博識のルセル君が作った防御壁を壊せるようなセルカDが、どうしてこんな球体を破れないか。
簡単だ。精神集中をさせないように痛みを与えつづけていたからさ。」
嫌味を含め、大げさに言う。
「さて、君も動いてもらっては鬱陶しいからねぇ。ルセル君が死ぬのをゆっくり見ていてもらおうか。」
俺に向かってリジスが言うと、目配せでドレイルに合図をする。
「けっ、俺はこいつとやりあいてぇんだがね。まぁいいだろう。
あんたがその博識お坊っちゃまを殺す間、俺はこのジルコンをいたぶり殺しておいてやるよ」
「…!
ジルさん!ルロクス!ルセル!お願いだから逃げてくださいっ!!」
閉じ込められたままのルゼルが叫んだ。
何か仕掛けられる!?
仕掛けられる前にせめてルゼルだけでも助け出せればっ!
とっさに俺はルゼルの球体に攻撃を仕掛けた。
「熱いかもしれないが我慢しろよっ!
炎のっ…拳っ!」
球体に向かってありったけの力を込めて拳を振るう。
拳に取り巻いていた炎は球体に吸い寄せられるように動き、まるで煙のようにいとも簡単に掻き消えてしまった。
そして肝心の球体は‐‐‐
「ジルさん…お願い…逃げて…僕たちならなんとかしますから…」
悲痛な声で言うルゼル。硝子ごしに話す声のようにくぐもって聞こえる。
…まだ、球体は傷も割れも歪みもなく、ルゼルを包んでいた。
中で飛び回る光に耐えながら、それでもけなげに俺たちの心配をする…俺はルゼルに微笑みかけた。
「かならず、助ける。」
振り向いた俺を見て、ドレイルがニヤリと笑い、走り出した。
俺たちの様子を笑い見てから行動したために多少の時間が出来ている。
俺も即、攻撃体制を取った。
前方にルロクスとルセルさんが、スペリアと対峙している姿が見える。
「お願いっ!やめてくださいっ!」
「・・・っくっくっくっく・・・スパイダーウェブ」
立ち止まっていた俺の脚に白い触手が絡みつく。
「くっ…」
その隙にドレイルの姿が消えた。
くっ!インビジブルかっ!
「悪いな、俺は動けないやつをいたぶるのが大好きなんでねっ!!」
突如右に現れたドレイルが、俺に向かって刃を突き立てた。
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