<アスガルド 神の巫女>

第二幕

神の巫女 × 蒼紅裂帛
〜叫ぶ声とミルレスの町〜




第六話 いしずえの光



「忙しいのに、こっちに連れて来ちゃってすみませんでした」
「全くだ。」
アクアさんは否定もせずに即答した。
ルセルさんから元の世界に帰るための宝石を返してもらったルロクスは、渋りつつもアクアさんに宝石を一つ渡した。
手のひらに乗せられたその宝石を見つめてから、ぎゅっと握り込んだ。
「オレは結構楽しかったんだけど、迷惑だったか?」
ちょっと自分の行いを悔いているらしいルロクスがちらりと問掛けた。
アクアさんは『元はといえばこいつのせいだから』とそっけなく言った。
「こいつひとりなら永久にこっちに居させてよかったんだがな。
あぁ、そうか、お前、ここに残るか?」
「ちょ、ちょっとっ!私も戻るわよっ!」
話の流れで置いてきぼりにさせられそうだったアウェルさんは、叫んでアクアさんの発言を却下した。
そしてアクアさんを指差して言う。
「そんなこと言ってアクア、意外と楽しかったんじゃないの?」
「あ?楽しそうに見えたのか?」
さも胡散臭そうに問掛けるアクアさん。
「あの・・・俺は楽しかったです。」
横からマクトがおずおずとしながら言うと、その言葉を聞いたルロクスはぱっと晴れやかな顔を見せた。
「また来いよなっ!」
「来いと言われても行く方法が―――」
アクアさんが言い終わる前に、ルロクスはアクアさんの手を開かせ、その中に黄色く輝く宝石を一つ置いた。
「それ、また来るための分な。
いろいろ終わったら、暇になったら使ってくれよ。今度は仲間皆で来いよ。」
言って笑いかける。
「人探し、頑張って下さい」
「お前も人と宝石探し、頑張れよ」
「お世話になりました」
「いやこちらこそいろいろ助かったよ。ありがとう。」
「もう勝手にひとのもん、取んなよな?」
「宝石が私の元に来たいって言ってたのよ」
それぞれ、握手を交わす。
「じゃ、帰るぞ」
アクアさんは言うと宝石を掲げ、 中に映った文字を読もうとしたときだ。
「あ。そだ。言い忘れたことがあるよ」
とルセルさんが不意にアクアさんに声をかける。
・・・もしかして、その宝石に何かあるんだろうか・・・?
と思ったのだが・・・どうも違ったらしい。
ルセルさんはにっこりと微笑むと、こう言ったのだ。
「彼女さんに、ヨロシク。」
「だから彼女なんていないっ!!」
・・・最後の最後までこの人は・・・
ほら、横でルゼルも頭に手を当ててるよ・・・
アクアさんは青筋立てながら宝石の中の文字を読み−−−
「・・・ったく・・・『いしずえ』っ!」
イィン・・・
発動音と光。
そしてそれが止んだ時には三人の姿はすっかりなくなっていた。
「さっさと行っちまいやがったな〜」
残念そうにルロクスは言うと、少しの間、空を見上げていたのだった。


その後―――
「いや〜さ〜、アクエリアスくんの仕込み刀が気に入ってさ、
作ってみたんだ〜仕込み服。
でも難点は服が刀で切れちゃうのと、腕にも傷が出来るかな〜って。」
・・・ルセルさんが変な研究をして、俺が実験材料にされたのは言うまでもない・・・