<アスガルド 神の巫女>

第二幕

神の巫女 × S・O・A・D
〜ふたつのルアス〜




エピローグ 別れていても其処は


「ルセルさんに会えなかったのは残念でしたけど、もう帰りますね」
アレックスさんはそう言うと、にっこり笑って手を差し伸べてきた。差し出されたのは右手だと気が付いたけれど、俺は気にせずその手を握った。
世界は違うけれど、信頼の証…ってところだろうか。
お互い、にぃっと笑った。
「ジルンコ、ルロっち、ルーにラズベリン、
お前ら今度俺たちが来るまで、生きてろよ〜」
「ふぅ、何かやっと重荷が取れたって感じだわ…」
ラズベリルは首をこきこきと左右に揺らして、肩をぐるぐると回した。
その仕草をみて、ルゥがうんうんと小さな両手で器用に腕を組んだ。
ミーだけは寂しそうにふよふよとゆっくり飛びながら
“どこか いく? ばいばい?”
という看板を掲げている。
アレックスさんはにっこり笑って『そうだよ』というとミーの頭を撫でた。
そんなやり取りの後ろで、むっとした顔のルロクス。ドジャーさんがいう呼び名が気に入らないらしい。
「…まだ変な名前で呼ぶんだな…
んじゃあやっぱりオレも“ドジャリン”って呼ぶことにする。」
「お・れ・は・ドジャーだ!」
「なら変な呼び方すんな!」
むうっとにらみ合っている二人を見て呆れるラズベリルと、にっこりと笑うルゼル。
「また、いらしてくださいね。
そのときはこの世界のミルレスに行けばルセルに会えますし、そこから僕達に連絡が行くはずですから。」
「今度の時にはミルレスの美味しいお料理、食べに行きますね」
「はいっ、僕達もそちらへいけるような媒体を見つけたら、
またお邪魔しに行きますね」
嬉しそうに言って、アレックスさんと手を握る。
・・・そしてまだやってる二人に俺は声をかけた。
「お〜い、ルロクス、ドジャーさん、それくらいにしておいたらどうですか…?」
「・・・今度のときまで、ちゃんと名前を覚えておけよ?でないとただじゃすまさねぇからなっ!」
「何言ってやがる。まだ魔術師見習のひよっこのくせして大きな口たたくんじゃねぇってんだっ!」
「なんだよっ!今度、絶対普通に名前言わせるからなっ!
それまでにスペルだって色々覚えてんだからなっ!
だから、また来いよっ!」
「あぁ、気が向いたらな。」


別れの挨拶を済まし、クレリックゲートセルフにのって、
ドジャーさんとアレックスさんは元居た世界へと帰っていった。

「・・・あの…クレリックゲートセルフって個人用ですよね…
またあっちの世界帰った時に、着地地点がばらばらなんじゃ…」
「っていうか無事に帰れてるか、謎だよな。」
「…ま、大丈夫だろう。」
俺は二人の心配はきっと大丈夫だろう。
まるで春を告げる風のように力強く、どんなことも吹き飛ばしそうな二人だから。

また明るい顔をして、会うことが出来る。
そのときにはどんなものを二人に見せてあげられるだろう。



“偶然と必然の境界線。
 それは世界をも超えることができるようだ。
 異世界であって遠い場所じゃない。
 二人が住んでいるのはそんな場所。”

ミルレスの町、聖職者協会の屋敷の一室。
一人、日記を書いていたルセルはこの前起こった出来事を思い返していた。
自分の住んでいる世界とは全く違った異世界での事。そしてそこで出会ったあの二人…。
ルセルはそっと持っていたゲートを取り出した。一つは使用して消えてしまったけれど、対で入っていたこの一つは発動せずに残っている。
それを手にしながらルセルは自分の日記にこう、一文継ぎ足した。

“世界を飛び越えるのは、
それほど大変なものでもないらしい。”

「っておれは思うんだよね。」
一言、声に出して呟きながら、手にしていた唯一のゲートを元あった木の箱の中へとそっとしまったのだった。