<アスガルド 神の巫女>

第二幕

神の巫女 × S・O・A・D
〜ふたつのルアス〜




第六話 もうひとつのルアスへ


偶然が引き合わせた4人と2人の出会い。
偶然が引き合わせた2つの世界。

だがもう一度会いたいと思えば、
これからも会いたいと願うなら、

偶然を必然に変える。
彼等はそういう性格らしい。


「だから、大丈夫だってぇ!移動用の魔法にはかわりねェンだしよ〜
ぴったりくっついていけば、なんとか飛べるだろ」
「イヤですよ気色悪い」
きっぱり言われたドジャーはむうっと顔を膨らました。
だが、彼の背中にしがみついたまま離れようとはしなかった。
彼−−−アレックスの後ろに。
優しげな雰囲気をかもし出しているアレックスは騎士であり、聖職者でもある聖騎士。そんなアレックスの後ろにしがみつく盗賊ドジャー。
もちろん、アレックスがドジャーをおんぶしてやっているわけでも、抱きつくのが趣味というわけでもない。
これには理由があった。
「んなこと言ったって、この媒体、聖職者用のだってぇんなら
この方法しかねぇだろうがっ!」
媒体−−−
それはちょっと前、この世界におとずれた異世界の者−−−ジルコンから、ドジャーが奪った…というか、くすね取った…というか、パチった…そんな入手の仕方だった物体である。
その媒体を使って、ジルコンの居る世界へ行こうとしているわけなのだが、一つ問題があった。
魔術師は個人用のウィザードゲートセルフと団体用のウィザードゲートの二種類あるが、聖職者の団体用移動スペルはない。あるのは個人用のクレリックゲートセルフだけ。
そう、今、ドジャーが持っているのは聖職者用の、クレリックゲートセルフ媒体だったのだ。
そして、アレックスは聖騎士である。
クレリックゲートセルフが使えるのだ。
肝心のドジャーは盗賊。
ということは−−−
「俺だってジルンコの世界へ行ってみてぇんだよ!
お前一人行こうだなんて、天国の神様が許しても
俺がゆるさねぇ。」
「そう言われても…」
アレックスは困った顔をして自分の後ろに居るドジャーを見やった。
ドジャーの瞳は嬉々とした光に満ち溢れている。
・・・。
アレックスは折れるしかなかった。
「う〜ん…どうなっても知らないですよ?」
個人用のスペルで2人の移動なんて危ないこと、この上ない。
だが今、このドジャーに逆らったら、明日の御飯にありつけない。
アレックスにとってドジャーは御飯をたかることの出来る人であり、明日の御飯は、すばらしき未来への光なのだ。その光を絶やすわけにはいかない。
アレックスは決心した。
「さぁさぁ!やっちゃってくれっ!」
「…本当に知りませんよ?」
一言そう言ったアレックスは、渡された城壁の切れ端をぎゅっと強く握り締めた。
そして、ぶつぶつと呪文を唱えだす。
足元に光が広がったかと思うと、魔法陣が広がる。
光に包まれ、二人は一瞬にして空間を飛んだ。



「あねさんあねさん!こんなところに行き倒れがっ!」
「ん?」
「見るからに変な格好ね…どこかの成金かしら」
「どうするあねさん、ふところでも探ってお−−−」
「やめなさいルウ、あたいらはれっきとした冒険者であって、泥棒じゃないのよっ!
まあ今は確かに路銀が足りなくって困ってるところだし、
どっからかお金が降ってくればうれしいなぁとか思ったりもするけど…」
「っ…つつ…」
誰かの声に気が付き、ドジャーは意識を取り戻した。
男と…女の声か…
ドジャーは重い体をゆっくりと動かす。
「おっ?!生きてるぜあねさん!」
「見れば分かるわよルゥ…まぁそうね、ミーの言う通りね。」
ルゥ?ミー?
ミーって自分って言う意味のことで言ってんのか?
にしても変なしゃべりだな…と目を開け、彼らの姿を見やった。
…が、いたのは一人の女盗賊と−−−ポン2匹なだけ。
声からして2人いた気がしたんだが…それよりもここは…
頭がぐらんぐらん揺れる。クレリックゲート酔いとでも言えば良いんだろうか…
気合で気持ちの悪さを払い落とし、ドジャーは目の前にいるまだ少女と言えるような女盗賊に尋ねた。
「ここは…どこだ?」
「へ?んっと、ルアスの端にある裏通りだけど?」
それがどうかしたのかといった不思議そうな顔でドジャーを見やった。
そして、ぽんと手をつく。
「そうか、あんた、記憶喪失とか?
物語でもあるわよねぇ、裏通りで倒れている人が実は記憶喪失とかいう話!」
「ねぇよ、んなもん。俺は記憶喪失でもなんでもねぇ。
とにかくここはルアスだっていうんだよな?」
「そうだけど?」
訝しげな表情を見せる女盗賊。横に居るポンはふわふわとのんびりと飛んでいた。
ドジャーは周りを見回す。
どう考えても自分が住んできたルアスのイメージとかけ離れていた。
ドジャーの住むルアスの端といえば、ルアス99番街。ゴミが溜まり、建物はぼろぼろ、灰色の町並み。
だがここは、綺麗な町の壁、敷き詰められた石だたみ、そしてカラフルな屋根。
明らかに違う。
ということは−−−
「…ここはあいつらの世界ってことかっ!!」
「きゃっ!ちょ、ちょっといきなりびっくりするじゃないのっ!」
いきなり立ち上がり、ガッツポーズをとったドジャーに、女盗賊は思わず後退さった。
そんな突然の行動に驚いて、
「あねさん!」
そう言って目の前のポン一匹が動き、女盗賊を守るように飛んできた。
「…こいつ…喋るポンなのか!?」
「なんだよ、悪いかよっ」
反論する少年のような声を出すポンの横で、ふわふわともう一匹のポンが飛び回る。
その手には“しゃべるの だめ?”という文字を掲げて。
「すげぇえな。世界変われば、喋るポンや文字書くポンがいるのかよ!」
「だっ、だからいきなり大声出すのやめてよっ!」
またもやびくっと身を振るわせ、女盗賊は遠巻きにドジャーを見つめるのだった。