<アスガルド 神の巫女>

第二幕

神の巫女 × S・O・A・D
〜ふたつのルアス〜




第一話 2人+ドジャー



-ルアス99番街-


「おぅおぅ、こりゃぁ珍しい落し物だ。空から人間が降ってきたぜ
 天気予報もさすがにこりゃぁ予想できねぇよな」
盗賊ドジャーは頭をかきながら言った。
そのたびピアスが光り、揺れる。
そしてなんなんだと見下ろす。
そこには二人の人が倒れていた。
「いててて...大丈夫ですかジルさん」
「あぁ、ルゼルは?」
「僕は大丈夫ですよ」
修道士と魔術師のようだ。
やさしそうな顔をした修道士と
まるで女のように綺麗な顔をした魔術師の男の子だった。
どちらも若い。
「なんなんだオメェら....天界(アスガルド)の住人が落ちてきたとか
 そういうわけの分かんねぇオチじゃねぇよな?」
ドジャーが話しかけるが
とりあえず目の前の二人はお互いを気遣っているようだ。
ジルと呼ばれた修道士の身なり男がルゼルと呼ばれた魔術師を抱き起こす。
「えっと....僕達どうなったんでしたっけ」
「たしかルセルのゲートが突然....ここはどこなんだ?」
二人はキョロキョロと見回す。
まるでドジャーが見えていないかのような動作だ。
それにドジャーはイラついた。
「あぁぁぁぁぁ!!!なんなんだオメェら!目の前の俺は完全無視か!?」
「え、あ、はいごめんなさい!」
「見知らぬ盗賊さん。ここは一体...」
「ここはルアスの99番街。そして俺は泣く子も標的。
 老若男女は全て俺の餌!『人見知り知らず』こと天下の盗賊ドジ...」
「ルアス!?ここが?!」
「やけに荒れ果ててるな」
「おい、聞けって。俺はドジャ....」
「そういえばジルさん!ルロクスとルセルさんは!?」
「そういえばいないな....。でも心配することないよルゼル。
きっとあいつらも大丈夫さ」
「ですよねジルさん.......あの...盗賊さん」
「ドジャーだ!!!!!」


場所を変え、酒場「Queen B」
そこでドジャーとルゼル・ジルコンの三人はテーブルを囲んだ。
カチャカチャとスプーンやフォークの音が響く。
ルゼルが手を止めて年上を気遣う
「えっと・・・盗賊さん....じゃなくてドジャーさん。お話・・いいですか?」
「あぁ」
ルゼルの言葉。
それに対し、ドジャーは少しまだ不機嫌そうに答える。
ルゼルは少し話しかけづらそうだった。
そこからはルゼルに変わりジルコンが話し始めた。
「俺はジルコン・F・ナインテール。修道士です。
 で、こっちがルゼル・T・ナータ。魔術師です」
ルゼルはジルコンの言葉に合わせ、ペコリと頭を下げた。
ジルコンの話方は丁寧だった。
元からそういう話し方をする人なのか
それともドジャーの方が年上でありそうな事に気を使っているのか。
とにかくそんな事お構いなしにドジャーはツンツンと話を返す。
「そりゃぁさっきも聞いたな。耳にタコだ。あんまり人に興味ないもんでな」
「そうですか...ごめんなさい」
「え〜っと...そんなに謝らなくてもいいんじゃないか?今のって」
「でも一応気遣ってもらってるみたいだし....」
「ん?あぁ、気にすんな。俺ぁこんなとこで育ったもんで口と性格が悪ぃだけだ
 まぁ、最近は面倒事もムカツクことに慣れちまってきてな。
 聞きたいことあるなら適当に話してくれ。なんか特賞ついてくるかもしんねぇぜ?
 触らぬ神に祟りなし。お前らに関わるかどうかは俺の気分ひとつだが
 ま、お前ら見るからに害がなさそう顔してるしな....」
ドジャーは酒を口に運びながらルゼルとジルコンを見た。
スラム街で生きてきたドジャーから見ると、
本当の実力はともかく
ルゼルはか弱い魔術師に、
ジルコンはお人よしの修道士にしか見えなかった。
まだ少し遠慮がちにルゼルがドジャーに話かける。
「えっと....ここはルアスなんですよね?」
「あぁ.....えっとドジャーさん
 どうやらここは俺たちの知ってるルアスとはなんか違うらしいんだよ」
「うん。そうだよね。そんな感じがする...」
「カカカッ!おかしな事を言う奴らだな。ルアスはルアスだろ?
 たしかに99番街はルアスの隅のゴミ臭い街だがな」
「違うんです。なんていうか、俺達のルアスとは感じが違うんです
 俺達の知ってるルアスはもっと騎士団によってちゃんと治安されていて....」
「は?騎士団?そんなもんは一年前に滅んだよ。時代遅れなのかテメェら
 それに治安なんてもんは騎士団はほんの米粒ほどにも与えてくれなかったっての」
その言葉にルゼルとジルコンは顔を見合わせる。
不思議と疑問が混ざったような顔だった。
「ジルさん....どういう事なんだろう...」
「わからないけど...きっと大丈夫さ」
「おもしろそうな話ね」
料理をトレイに乗せて持ってきた女性が言った。
赤いドレスを着たこの女性はこの酒場の店主マリナだ。
マリナは言うなりテーブルに料理を並べ始める。
「おもしろそうってどういうこったマリナ」
「こんな話があるのよ。世界は何個もあるっていう話。
 この世には神によって幾つもの並行世界が作られているっていうね」
「あぁ、あのうさんくせぇ御伽話か
 イアやらロオやらっつー神によっていくつも世界が同時に進行してるってんだろ?
 こいつらが別の世界から来たってのか?カッ!信じらんねぇな!」
だがルゼルとジルコンの二人はまた顔を見合わせる。
突拍子もない話のようで納得のいく話でもあるようだ。
「別の世界....」
「どうしようジルさん....」
「大丈夫。きっとなんとかなるさ」
「えっと....ジルンコだっけか?」
「......ジルコンです」
「あ、そうだったか。ま、いいや。ジルンコで統一しようぜ」
「い、いやですよ。俺はジルコンです」
ジルコンは参ったなぁといった感じだった。
でもまぁおごってもらっている手前強く否定もできなかった。
「カカカッ!いーじゃねぇか!なんか気に入っちまった!
 んでジルンコ。さっきから"大丈夫"、"なんとかなる"ってよ
 オメェどんだけ楽天家なんだ?」
「楽天家?」
「....あぁ〜〜〜....分かった....つまりどことなく鈍いんだな...
 ま、だがそのクセやけに気が利く。そこが周囲を落ち着かせてるのかもな
 なんにしろ修道士っぽくない野郎だなジルンコよぉ〜」
「ジルさんの事ホメてるのかな?」
「さぁ....酔ってるんじゃないかな」
「それに比べてそっちのルゼルっつったか」
ルゼルは「ぼくですか?」といいたげな顔をしながら
食事へ伸ばしていたフォークをとめた。
「お前なんかよ、チクチクした食い方といい、顔といい、雰囲気といい、
 まぁなんとなくだが女みてぇな野郎だな。女々しい野郎だ」
ドジャーが口を開けて笑いながら言った。
「え?あはははは.....それよりもドジャーさん....
 僕達仲間がいるんです...。きっと違う所に飛ばされて...
 できたらその...一緒に探してもらえませんか?知らない町なもんで....」
「あん?俺を便利屋と間違えてんのか?」
「す、すみません!」
「........突然の頼みごとで、すいませんでした。
 ルゼル、地理がわかりずらいけれど、なんとか俺達で探し出そう。
 ドジャーさん、おごって頂いてありがとうございます。」
ジルコンはルゼルを支えながら席を立とうとした。
「おい」
「?」
「は...はい。なんでしょうかドジャーさん...」
「ったく。俺もいつからこんなお人よしになったかな
 最近お人よしとツルむことが多くてうつったかなクソッ...」
ドジャーは髪をクシャクシャとかいた。
「俺も今受け持ちの用があんだ。それの手伝いをしてくれるっつーなら
 その仲間探しとやら.....手伝ってやってもいいぜ?」
「ほ、本当ですか!?」
「いいんですかドジャーさん?」
「あぁ、気にすんな。俺の悪いクセだ。持病ってやつかな」