<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第七章 サラセンの隠された場所



第八話 石の魔力



名目はまだキュイーブルさんの護衛。
闇マーケット内でうろうろするのはそんな名目があっても緊張するものだった。
「あの視線がなんか怖いんだよなぁ」
ルロクスが道に立つ警備の男を視線で指して言う。
俺もそれについては同感だった。
携える武器であの人は戦士なんだとわかるが、その武器の大きさに恐怖するというよりも彼自身が放つ威圧感が凄いのだ。
確実に凄腕の人だろう。
そんな人たちがそこかしこに居るのである。
怖いと感じるのは普通のことだろう。
なまじ、俺達が嘘を言って入り込んでいるというのがある分、余計に怖い。
「彼らは客の安全を守るのが優先だから、むやみに飛びかかっては来ないさ。
あ、腹減ってるときは別かもねぇ」
「なんかまるで猛獣みたいに…」
キュイーブルさんとルゼルが言い、小声で笑った。
この闇マーケットの敷地は広かった。
サラセンの町が明らかに入る大きさなのだと教えてくれたが、本当に広かった。
オークション会場に向かう時にも思ったが、娯楽施設やら温泉施設、宿泊施設や飲食施設が充実しているのだ。
さながら、“地下の町”である。
そこを見て回りながらルゼルはキュイーブルさんに話しかけながら歩く。
本当に久しぶりのようで、嬉しそうに笑っている二人。
邪魔をしないように俺はルロクスに話しかけた。すると逆にルロクスがいぶかしげな顔をして俺を見るのだ。
「?どうした?」
「いや、いいのかって思ってさ」
「え?」
「このまんまじゃ、ルゼルをアイツに取られるんじゃねぇかな〜ってさ」
「と、取られるって…」
『まぁいいんならいいけど』と一方的に話を切られてしまい、俺はその後何も言えなくなってしまった。


キュイーブル・ヤーデ・エルフェンバイン。
この名前は本当に有名だった。
その為、どこに居ても声が掛かる。
そしていわくつきの商品を買ったということでさらに知れ渡ったようで、俺達…というか主にはキュイーブルさんだけなんだけど…注目の視線を痛いほど感じるのだ。
歩きづらくて仕方がなかった。
「注目されるのには慣れたとは思っていたんだけど…
今回のは辛いねぇ…」
何度となく、色んな人に話しかけられ、好奇な目線を掛けられ、キュイーブルさんは参ったとばかりに苦笑いを見せた。
「噂のいわくつき宝石って言って遠巻きに見てくるけどさ、何にもないよなぁ?」
ルロクスは俺に言った。
今現在は俺がそのサファイアを持っているのだが、何も変わったことはない。
俺はこくりと首を縦に振って見せた。
「まぁ、たぶんいわくつきっていうのは、
お亡くなりになった方の遺品だったからじゃないかって思ってるんだが…
もしかして違うのか…?」
と俺の意見を言ってはみたが、自分でも言いながら自信がなくなってきた。
周囲の反応を見ていると何だかもっと何かがあるような
…いや、何か起こるのを待っているような、そんな視線のように感じる。
「ちょっと気にはなるが、まぁなん―――っととっ」
話の途中で俺は何かにつまづいた。
見てみると足元には銅貨が…
「どうしたんだ?」
立ち止まった俺に気付いたルロクスが振り返り、不思議そうに声を掛ける。
俺の目線を見て気付いたルロクスは、ひょいっと地面に落ちていた銅貨を拾い上げる。
「運良いじゃん、もらっとこうぜ〜」
「あ、あぁ…」
こんなとこで、どこに届ければいいかわからないし、拾うのをやめようかと思っていたというのに…
ルロクスは拾ったコインをさっさと自分のマネーバックに入れてしまった。