<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第七章 サラセンの隠された場所



第三話 旅の師匠



「この方はキュイーブルさん。
僕が旅を始めてすぐに出会った人で、傭兵とかのお仕事についていろいろ教えてくれた人なんです」
俺達が借りた部屋に招待してお茶を出しながら、ルゼルは俺達に先ほどの男の人を紹介した。
「キュイーブル・ヤーデ・エルフェンバインです。
見れば解ると思うけど魔術師やってます。
よろしくね」
多分俺より少し年上の、ルセルさんくらいの歳だろうか。
ルゼルと同じ服を着た彼、キュイーブルさんはにっこり笑って俺達に挨拶をした。
その挨拶にルロクスが反応する。
「エルフェンバインって、あのエルフェンバイン…?」
「多分そのエルフェンバインだね」
…どのエルフェンバインなんだ…?
俺は全く話の意味が分からずにいると、話題の本人が説明をしてくれた。
「魔術師のエルフェンバインって聞いたことあるかい?」
そこまで言われた時、やっと俺は思い出した。
魔術師エルフェンバイン。
彼の名は旅をする者で無くても知られているんじゃないだろうか。
優秀で依頼された仕事は確実にこなす。
その実績から名家から引く手あまたらしい。
女性にも人気らしく、どこかの御婦人と付き合ってるだのと言った噂が絶えないというのも、彼が有名なひとつだ。
「旅先で噂はいろいろ聞いてました。忙しそうなんだなぁって」
「人気になった分、簡単に自分の時間が取れなくなったからね…
でも、ずっと君を捜して居たんだよ?
また出会えて本当に嬉しいよ」
その言葉にいろいろ引っかかる俺。
「捜してたって…誰かに依頼されたとかですか?」
「いや?個人的にだけど?」
俺が問いかけると至極普通に返事が返ってくる。
「もしかして人雇って捜させたりしてねーよな?」
ルロクスも胡散臭がって問いかける。
その問いで逆にキュイーブルさんの方が不審そうな顔をした。
「どういう意味?誰かがルゼルを捜してるってこと?」
キュイーブルさんが言い、心配そうな顔をしてルゼルの顔を見ている。
「誰かに狙われてるとかなのかい?」
「い、いえ、大丈夫です」
遠慮してルゼルが答えたが、キュイーブルは続けた。
「確か人捜しをしてるって言ってたよね?
今もその人を捜しての旅?」
「今はその人の為に探し物をしてて…」
ルゼルが正直に答えるとキュイーブルは不思議そうに『何を探してるんだい?』と聞く。
『ん〜』と悩みながらルゼルは指折り数えながら言う。
「ダイアモンド、アメジストにサファイア、オニキス…かな」
「…宝石ハンターにでもなったのかい?」
「はんたー?」
まだ集まっていない石の名前をずらりと述べると、キュイーブルさんは不思議そうにそう問いかけたのだが、言葉が理解できなかったルゼルは疑問符を浮かべている。
俺が横から意味を説明するため耳打ちしようかとした時、キュイーブルさんが声をあげてこう言った。
「宝石を探してるならルゼル、いいところ連れてってあげるよ」
笑顔でキュイーブルさんはルゼルにそう提案したのだった。


「私はキュイーブル・ヤーデ・エルフェンバイン。
後ろは護衛の三人。いいかい?」
キュイーブルさんが説明している。サラセンの町。大通りから少し離れた裏路地。
そこにあった勝手口に着くと、キュイーブルさんは躊躇うこともなくノックをしたのだ。そして出てきた20歳後半くらいの女性に今の説明をして、何かの紙を取り出した。それを見た家の主である女性はこくりと頷いて、恭しく礼をし、俺たちを奥へと案内する。
何も説明されていない俺たちはただキュイーブルさんの後を付いてきただけなのだが・・・
なにか不穏なものを感じずにはいられない。
どこへ向かってるんだろう・・・
女性は居間に案内をすると『少々お待ち下さい』と言い、足で床を何度か蹴った。
タン、タン、タタタ
暫くして、
コン
床の下から音が返って来たのだ。そしてもう一度、女性が床を鳴らす。
タン、タン、タン、タン
すると床の一部が徐々にずれてポッカリと穴が開いたのだ。
ええええ・・・・
「中は暗いのでお気を付けて下さい」
言って女性は俺にランプを渡す。
こんな・・・隠し階段だなんて・・・
渡されたランプで中を照らして覗き見れば、先は長い階段になっているようだった。
入れってことだよな…
「じゃあ行こうか。先頭お願いできる?」
「解りました」
俺が返事を返すとキュイーブルさんは『やっぱり前線で戦う職は頼もしいね』と笑って言うものだから、恥ずかしくなってちゃんとした返事ができなくなってしまった。