「何か…ごめんな?」
「…ぅん?」
部屋に帰ると無口なルロクスがいた。
避けるように部屋を出て行ってしまうかと思ったがそんな心配は要らなかった。
ただ、黙々と本を読んでいる。
話しかけるなと言いたいんだろうなとは思ったが、話しかけなきゃこの状況を打開できない。
だからこそ俺は話しかけたのだが…やっぱり空気が重くて話しかけ辛かった。
「あ、いや…なんかルロクスの力の事を、責めたわけじゃないんだ。
ルゼルも俺も、そんなつもりなかったんだ。
でも、ルロクスが気を悪くしたんなら謝りたいって…ごめんな」
「・・・」
ルロクスは机に向き直ったまま、俺の話を聞いていた。
不機嫌そうだとは思った。
でも、俺はルロクスが話してくれるのをただじっと待った。
随分静かな時間が流れた気がする。
辛抱強くルロクスを見ていると、小さなため息と共にルロクスが本を閉じた。
すこし間を置いて、ルロクスが言った。
「オレを…置いてくんだろ?」
「ルロクス?」
その言葉と共に振り向いて、深刻そうな瞳を俺に見せる。
そんな表情してるとは思っても見なかった俺は、疑問符を浮かべた。
その顔を見て今度はルロクスが不思議そうな顔をする。
「え…?ち、違うのかよ?」
「置いてくって…ここへ?ルロクスを?」
「オレ、どう考えても力不足で足手まといじゃん?
だから…危険だとか言って、二人とも、オレをこのスオミに置いて、
旅に出てっちまうんじゃないかって…スオミに来たのはそのためじゃないかってオレ…」
「そんなこと、思い付いてすら無かったよ…」
俺は眉をひそめて言った。
「じゃあなんで・・・」
まだ疑問とばかりの表情で問いかけてくるルロクスに近づき、頭にぽんと手を乗せた。
「まぁ・・・お前のことを思ってスオミに来たのは確かだけどな、
お前を置いて行こうなんて思ってないよ。
ただ、お前に息抜きしてもらいたかっただけさ」
「息抜き・・・?」
「イリフィアーナさんも言ってたろう?
この頃のお前は、気を張り詰めさせてばかりだからな。
息抜きしにここに来ようって、ルゼルと話してあったんだよ。」
「そ、そっか・・・嘘じゃないよな。」
俺が首を縦に振るのを見ると、ルロクスは俺の顔をじぃっと凝視してから、ふぅっとため息をつき−−−
「ジルコン、嘘ついたら顔に出るもんな。」
ぼそりとそう言った。
そんなこと言われるなんて思っていなかった俺は、未だに不安そうな顔をしているルロクスに『大丈夫だから』と告げた。
するとルロクスが真剣な顔付きで話し出す。
「初めはルゼルが居なくなって、凄く気になったからっていう理由で二人について来たけどさ、
オレ…二人の力になりたいって思ってる。
旅は本当に楽しいし、大変なこともあったけど、それでも一緒に旅していきたいって思う。
そんで…強くなりたい。強くなってイリィとも旅が出来るようになりたいんだ。」
「そっか…ルロクスはルロクスの目標があるんだな」
俺の言葉にルロクスは恥ずかしそうに笑った。
「イリィも元々は旅してたらしいし、少しでもイリィに近づけたらって。
ずっと守られっぱなし、保護者のまんまじゃ、何か情けないかなってさ」
ルロクスは言って、椅子の背にもたれた。ぎいっと椅子がしなる音をたてる。
「二人には言ってなかったけどさ、イリィはオレの保護者なんだ。」
その言葉を聞いて、俺が疑問に思っているとルロクスが詳しく説明してくれた。
「オレ、孤児だから本当は孤児院にいたんだよ。
イリィとは孤児院のお使いで外に出た時にぶつかっちゃってさ。
そこで話をして仲良くなった、それがイリィとの出会いさ。
でも、ちょっと仲良くなったからって理由だけでオレに会いに孤児院へ何度も来てくれて、
オレを孤児院から出して保護者になってくれて、自分の家にも住まわせてくれて、
学校にも行かせてくれて…イリィは見ず知らずのオレにずっといろんなことしてくれた。
本当なら一生、孤児院の中で終わるような運命を、イリィが変えてくれた。
恩人で、大切な人なんだ…」
「そっかぁ…」
両親を知らない孤児だったとは聞いていた。
俺はてっきりイリィさんはルロクスの両親の知り合いとかで、面倒を見ているのかと思っていた。
実はイリィさんとルロクスは全く親戚関係とかじゃなかったとは…
「いい人に出会えたんだな」
俺が言うとルロクスは恥ずかしそうにしながらも首を縦に振りながら、『うん』と答えた。
「…だからさ…もうちょっとだけでいいから一緒に旅させてほしいんだよ。」
「もちろん!これからもよろしくな?」
俺の言葉に、ルロクスは嬉しそうな顔をして『おうっ』と返事を返す。
やっと安心したのか、ルロクスは肩の力が抜けたようだった。
『一緒に旅、出来るんだよな?』と再度ルロクスは問いかけた。
俺が再度頷いて見せると、本当に安心したようで、いつもよりも晴れやかな笑みを見せた。
「折角戻ってきたんだし、イリフィアーナさんともっと話、してこいよ?
明後日にはまた違う町に出発するんだから。」
俺のその言葉に、ルロクスは少し照れながら『ちょっと行ってくる』と言って、早足で部屋を出て行ったのだった。
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