<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第六章 スオミで待つ人



第二話 久しぶりの風



ルゼルはイリフィアーナさんの部屋に。
そしてルロクスが時々泊まっていたらしい部屋に、俺も一緒に泊まることになった。
ルゼルのことは女性だと伝えた上での部屋の割り振りだ。
「俺の家は旅に出た後、引き払ってもらったからさ。
荷物もここに持ってきてもらったんだ。」
言いながらごそごそと箱の中のものをあさった。色んな巻物を引っ張り出しては自分の旅の荷物に追加していく。
「小さいころはいつものようにここへ遊びにきてたから、この部屋がオレの部屋みたいになってるんだ〜」
「イリフィアーナさんとは小さい頃から?」
ふと思って問いかけてみると、ルロクスは大きく首を振って答えた。
「うん。町で仲間と鬼ごっこしてたら、イリィとぶつかってさ。そこで知り合ったんだ〜。
イリィって、前は今のオレ達みたいに旅人やってたらしいんだぜ〜」
と楽しそうに話す。そしてそんなルロクスの動きがぴたりと止まった。
くるりと振り向き、ルロクスははたと俺を見つめる。
「ど・・・どうした?」
俺はそんな表情を見せるルロクスに問いかける。
こんな不安そうな顔を見せるなんて・・・何かあったのか?
でもルロクスはふるふると頭を振って、『いや、なんでもない』とだけ答えた。
「明日・・・イリィから学校に顔を見せておけって言われてさぁ」
そっかそれであんな表情を見せたのか・・・
「どうした?なんかイヤなのか?」
「う〜ん・・・一応学校を休学ってことになっててさぁ。
顔見せにくいって言うか・・・」
「そっか。
でも行かなきゃだめなら、がんばらないとな」
「だよなぁ・・・うん」
ルロクスは苦笑いしながらもいつものように笑って見せようとしたのだった。


「お帰りなさい、どうだった?ひさしぶりの学校は」
「え゛〜?
・・・ただ茶化されただけ。
先生、何でか休んでてさぁ・・・
クラスのみんなに会っちゃって、で、いろいろ聞かれて大変だった・・・」
イリフィアーナさんの出迎えに、げんなりとした顔をしてルロクスが家へ帰ってきた。
でもちょっぴりうれしそうな顔をしているのは気のせいではないんだろう。
イリフィアーナさんは『そうだったの〜』とにっこりと笑って答えている。
「じゃあ他の先生にはお話しておいたの?」
「うん、あんまり長い間休みだと戻るときに試験があるんだってさ。
めんどくさそうなこと言われた・・・」
さらにげんなりとした顔で言う。
そして俺たちを見て、『ただいま〜』と間延びした声で言った。
「大変なんだねぇ学校って。」
ルゼルが言うと、『まぁねぇ』とルロクスが返す。
「でも、お友達はみんな元気にしていたかしら?」
「うん。嫌ってくらいに元気そうだったよ」
ルロクスはそういうと居間でお茶をしてのんびりしていた俺たちのテーブルへと着き、出されたお茶に口をつけた。
「なんかさ、みんな、ルアスのうわさしてたぜ?
王様がどこかいなくなったんだとか、王女もいなくなったとか。
王女ってあのあったことある、あのお姫様のことかなぁ?」
「その話、どこの町でも聞くよねぇ・・・ほんとかなぁ」
「だなぁ・・・この前店の人も王様の話してたしなぁ。
アスク帝国のことは興味もないし、俺の町からも遠い町の王様だから、関係ないと思ってたけど。」
「ジルさんの故郷はサラセンですしねぇ。
このスオミやミルレスとは違って、アスク帝国とは関連のない町なんでしょうかねぇ」
俺の言葉にルゼルが悩みながら答える。
ぱたぱたと手を振って俺は『自分の興味がなかっただけさ』と軽く言うとルゼルは『そうなんですか』と苦笑いをして返した。
「スオミとミルレスは元々アスク帝国によって作られた町ですからね。
他の町よりはつながりが大きい分、噂もたくさん入ってくるんです。
ルロクスにとってはそんなに興味のない話でしょうけど」
イリフィアーナさんが言うと、ルロクスは『ん〜』と悩んだ声を出した。
「前は、そんな話楽しそうじゃないし、興味なかったけどさ。
実際行った場所の話だとちょっと興味あるよ。
実際にあった人の話かもしれないしさ」
「それだけ視野が広くなったのかしら?」
「ん〜・・・いろんなこと知ったっていうのはあるよ」
イリフィアーナさんの問いかけにルロクスはそう言って笑った。
「傭兵の仕事もしたし、突然の依頼やらいろんなこともしたからなぁ。
俺もルゼルと一緒に旅する前は傭兵の仕事なんてやったこともなかったし・・・」
俺が言うと、ルロクスが意外そうな顔をして『え?そうだったのか!?』と言ったが、すぐに何か納得したような顔をした。
「そうだよなぁ。ジルコンってそんな感じじゃないもんなぁ」
「力仕事のほうが俺は性に合ってるんだよ。
速度ポーションやヘルリクシャを運んで、お礼にヘルリクシャもらったり、ね」
「現物支給もいいですねぇ。そのときに必要なものを〜って。」
「欲しい物の運搬の仕事が頻繁にあるというわけじゃないけどね」
俺が自分のしていた仕事の欠点を言うと、興味を持っていたルゼルが『そっかぁ』と残念そうに呟く。
そこでルロクスが『ん〜』と悩みながら言った。
「そうなんだよなぁ。いつも飯の心配しながら旅してたもんなぁ。
食べたことないものもいっぱい食べれたけど」
ルロクスが言うと、イリフィアーナさんはくすくすと笑ってルロクスを見た。
「そうねぇ、じゃあ今日はしっかり、ジルコンさんとルゼルさんにご馳走しなきゃね
ルロクス、一緒にお買い物に行きましょう。
どんなものがいいか、一緒に選んでくれないかしら?」
「あ、うん。」
イリフィアーナさんに呼ばれ、素直に返事をした。
「ちょっと行ってくる。二人は留守番な?のんびりしててくれよ」
そう言うルロクスの後ろでにっこりと微笑んでいるイリフィアーナさん。
「大丈夫。ゆっくり買い物してこいよ」
「行ってらっしゃい」
俺とルゼルが見送りの言葉をかけると、ルロクスは少し恥ずかしそうに頷き、出掛けて行った。
「ルロクス、ゆっくり出来てるかなぁ」
ルロクスを見送って暫くしてから、ルゼルがぽつりとそう言った。
「多分出来てるさ。楽しそうに買い物に出てったし。」
「そうですよね」
俺の言葉を聞いてルゼルは少し安心した顔を見せる。
心配性だなぁルゼルは。思わず苦笑いした俺の顔を見て、ルゼルも同じように苦笑いしたのだった。