<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第五章 サラセンの町の事件簿



第七話 盗み人の行方



「そういえばさ」
「ん?」
「二人で行動するのって買い出し以外じゃ初めてじゃねぇ?」
僕と自分自身を交互に指差して言うルロクスを見て、あ〜そう言われればと気がついた。
僕―――ルゼルとルロクスはジルさんと茶トラさんとは別行動で、現場に向かっていた。
盗まれた犯人が残したという荷車の跡を見に。
でも見に来てみたものの、それほどの特徴もないただの二つの溝がずーっと地面に描かれているだけ。
荷車をひいて出来た跡だと茶とらさんは言ってたが、僕もコレを見て同意見だった。本当ならその溝の跡を追いかけていけば犯人がいる場所にたどり着くんだけど、丁度草が生えている場所で跡は消えてしまっていた。
これじゃあ追いようがないなぁ。
「この跡さぁ…なんか時々歪んでねぇ?」
歪んでいるらしい場所を指差してルロクスが言った。
そして蹲りながら話を続ける。
「スオミにあったおんぼろ荷車がこんな跡つけてたっけ。
これに横線をひいて四角に区切ってさ、
端と端から始めて、ぴょんぴょん飛んで相手とぶつかったらじゃんけん!ってぇの、よくやったんだゼ?」
「へぇ〜そんな遊びがあるんだぁ」
僕が感心してるとルロクスは『あ、そうか』と小さく呟いてから言った。
「ルゼルって、小さい頃はセルカかルセルとしか遊んだことないんだっけ?
今度一緒にやってみるか?」
「えぇっ!…なんか出来なかったら恥ずかしいし…」
僕はルロクスに向かってパタパタと手を振って拒否をしておいた。
…活発な遊びは湖で魚釣りを恐々やったくらいのような…
魚釣りも活発じゃないっか。
「そかぁ?いつでも遊び方教えるゼ?」
ルロクスが積極的にいうもんだから、なんか僕はそのやり取りが楽しくなってちょっとだけ笑ってしまった。


「収穫な〜しっ!」
「こちらも収穫なしだよ」
落ち合った俺たちは、双方で得た情報を共有しようと思ったのだが・・・
「ジルコンの方なら情報っていうか手掛りっていうか・・・
なにか訊いて来たかと思ったのに」
ルロクスが俺を見て不満げに言う。
と、言われてもねぇ・・・
「おんぼろ荷車で盗み働くくらいなんだから、貧乏人なのはわかるけど」
「まぁ、そもそもお金に困ってない人が盗みをするかどうかですけどね」
ルロクスが言ったことに対してルゼルが突っ込む。ルロクスはむぅっと考え込んでしまった。
そうなんだよなぁ…
「雇い主曰く、あたりにいた浮浪者も調べて見たが、なんも怪しいところは無かったらしいぜ。
荷馬車を持ってるやつもいなかったってさ。」
茶トラが言う。
「じゃあ浮浪者じゃないってこと?」
「やっぱり手掛かりが荷車持ってるやつってだけしかないわけだな」
俺が言うと皆悩み顔で頷いている。
「また盗みがあるまで待ってるしかないのかよ…?」
「次はどこが狙われるかわからないことには、見張ることもできませんよねぇ…」
ルゼルとルロクスが悩みながらぼやくと茶トラは『ん〜』と唸りながらこう言った。
「一応可能性が高いところなら知ってるぜ?」


「ここが“次に盗みに入られそうな場所”…?」
「そ。」
問いかけた言葉に茶トラは短い言葉で答えた。
次に盗みに入られそうな場所―――それは宿屋だったのだ。
「今までで多く盗みに入られてるのが宿屋だからさ。
不定期だけど入られる時期も、今日か、明日か?ってな〜」
茶とらは廊下の中央に立って言った。
こんな所で話をしているのも何だが、俺達は師匠の家に泊まらせてもらってるから作戦会議のやれそうな場所が見つからない。
宿屋の下にある酒場でだなんて、誰が聴いているかもわからないのに出来るわけがない。
まぁ今もこんな人の行き来ができる場所だから、話をしてるような場所じゃないんだけど。
「夜になったら周辺を当たってみようか。」
「俺は他の場所も回ってみる。重要文化財ってやつもこの町にはあるからさぁ」
茶トラは自分の行動予定を先に告げた。
宿屋は俺達がってことか。
俺が了解したのと同時に茶トラは歩き出す。
『日を暮れるそれまでは休憩な〜』と言いながらさっさと帰って行こうとする。
いきなり去って行くもんだからルゼルは止めようかどうしようかとおろおろしていていたが結局止められずに茶トラを見送るかたちになってしまった。
「白昼堂々盗みをしないようだし、夜になるまでゆっくりするか」
「そう…ですねぇ…ちょっと手抜きみたいな感じがしますけど…」
「こんなんだと、なんか捕まえる気がないみたいで、イヤだなぁ〜」
ルロクスのぼやきは最もだが、今焦っても仕方がない。
「犯人が下見に来てたりするかもしれないから、
僕達のこと悟られないようにしないと。」
俺が言うと、そこは同意のようだった。ルロクスは頷いてみせ、ルゼルを見ながらニカッと笑った。
「犯人捕まえて、ルビー手に入れような!」
「…うん!」
励ましてくれたことが嬉しかったルゼルは、とびきり明るい笑顔で微笑んでみせたのだった。