<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第五章 サラセンの町の事件簿



第二話 サラセン闘技大会



「今日は何を作ろうかしら。」
嬉しそうに笑いながら母さんが言う。
俺の姿を見て母さんは優しい笑顔で『おかえりなさい』と言ってくれた。
そして即、俺の家へと連行となったわけで−−−
「お二人さんは紅茶でもいいかしら?」
「あ、はいっ。お構いなく〜」
ルロクスはこくりと首を縦に振り、ルゼルはぱたぱたと手を振りながらそう答えていた。
「お友達と一緒に旅をしてるなんて、知らなかったわよ?
手紙もくれないで・・・」
母さんに言われて俺が苦笑いをしていると、ルロクスが横で『ジルコンってまめそうなのに手紙書いてなかったよな〜』と思い出しながら言っている。
「筆不精だからさぁ」
俺がそう言い訳をすると、母さんはしょうがないわねと言った顔をしながらお茶の用意をしていた。
「そういえばルゼルも手紙書いてないよな」
「う〜ん・・・今までルセルに迷惑が掛からないよう、連絡取らないんだって思ってたし・・・
今はちょくちょく顔を見せるようにしてるから、いいかなぁって」
「二人ともなんか薄情だなぁ」
姉代わりになってくれているイリフィアーナさん宛へまめに手紙を出しているルロクスに言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
苦笑いを浮かべていると、丁度そこに母さんがお茶の用意をそっと出してくれた。
「ご両親にはお手紙を書いておくだけでも安心するのよ?
可愛い娘さんならなおさら、ね?」
そう言ってルゼルを見て笑った。
・・・あ。
「母さん、ルゼルのことわかるの?」
「ん?」
「いや、女の子だってこと」
俺が問うと母さんはくすくすと笑った。
「顔を見れば、解るわよ?」
逆に『解らなかったの?』と問われ、俺は苦笑するしかなかった。
それを見てルゼルは申し訳なさそうに答える。
「僕も、隠してましたし・・・」
「そう、大変だったのねぇ?
ジルコンが迷惑掛けてないかしら?」
「いえっ!僕の方が迷惑掛けてばっかりでっ!」
ルゼルが慌てて言うと、母さんは『そうなの?』と訝しげに見た。
俺が迷惑かけるほうだと疑ってならないらしい。
「成長したんだよ?これでも」
俺はそう言って見せたが、母さんは全く持って信じていないようだった。


この時期にやるはずの武術大会。
マイソシア中のツワモノ達が大会に参加するためにこの町に訪れ、サラセンは活気付く。
そんな時期のはずだ。
「そういえば、人通りが少なかったよな?」
「今の時期なら武術大会なのにねぇ。
みんなも大会目当て?」
俺が首を縦に振ると、母さんは済まなさそうに眉を歪ませた。
どうしたんだ?と思っていると、母さんは俺たちを見やって言った。
「大会は、開かれないらしいのよ」
『え・・・?』