<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第五章 サラセンの町の事件簿



第十一話 酒場



「茶とらさんの考えた通り、今日あの宿屋にくるなんて、凄いです」
そうルゼルが茶とらに言った。
ここは宿屋。
俺達が見張っていた宿屋に、俺たちはもう一度戻ってきていた。
隣の部屋にそっと盾と皿を入れてきたりもしていたけど。
そしてやっと落ち着いて怪盗の男を見たのがついさっきのこと。
茶とらが『ジルコンのおかげだよ』と感謝の言葉を言った。
「聞き込みってさ、知らないやつが話を聞きに行けば、
相手は不審がって、持ってる情報全部言わないのな。
地元だから知り合いも多いし、知り合いじゃなくても修道士ってことで警戒心が少なくなってたから」
「そ、そうだったんですか…」
自分では気付いてなかったが、役には立っていたらしい。
でも今日捕まえることができたのはいいとして、だ。
「盗られたもの…全部あったんでしょうか…」
「だな。明日確かめに行くか?」
ルゼルが言ったことに対してルロクスが答えたが、俺は否定の言葉を返した。
「いや、あとはもうワイヤレスさんに任せたほうが良いと思うよ。
確かめようにも今までどんなものを盗られたのか、正確な内容を知らないから」
「だな。俺も同感。
俺が依頼されたのは怪盗を捕まえるって話だけだし」
茶トラも俺と同じ意見だったらしい。
「そっか…それなら明日こいつ渡して終了だな〜」
ふぁあっと欠伸をしてルロクスが言う。
「これでやっと本題の宝石探しが出来るな。
ごめんなルゼル、師匠の我が侭に付き合ってもらって…」
「いえ、いいんですよ。路銀の足しにもなりましたし」
と言って茶トラを見ながらにっこり笑う。
茶トラは『明日な』と言いながら、何か考えているようだった。


「ね、ねみぃ…」
ルロクスがげんなりしながら言った。
パンプキンヘッドとその飼い主?をワイヤレスさん達に引き渡し、俺達は依頼完了となったので師匠の家へ帰ってきていた。
だが、もう日は昇りつつある明け方。
世界が明るい。
「帰ったら、ちょっとだけ寝ましょうか。
午前中に起きれるか自信ないですけど…」
ルゼルも一つ欠伸をしてから言った。
そうだな、ちらっとだけ師匠に話をしてから仮眠するか。
もうこの時間だと、起きて準備体操しているはずだし。
ルゼル達には先に寝てて貰うよう言うと、俺は事件の終結を言いに道場へと向かった。



「よ。」
夜。外で俺は技や動きの自己練習をしていると、不意にそう声を掛けられた。
振り向いて見てみれば―――
「茶トラ…どうしたんです?」
「報酬。男と引き換えってわけにいかなかったことを謝っておいて欲しいって言われてさ。」
「あ、ありがとうございます」
茶トラが言って渡してくれた袋は、俺が思っていたよりも軽いものだった。
三人分とはいえ、ちょっとだけの手伝いだったし、仕方がないかな…
袋の中身の少なさに困った顔をするだろうなとルゼルのことを思いながら、貰った袋を腰に結い付ける。
その動作が終わるのを見計らったように茶トラが俺に話しかけた。
「ま、それよりもさジル、酒飲めるだろ?」
「え、ま、まぁ」
「じゃあ、呑もうぜ?」
突然の話ではあったが断る理由もなかった俺は承諾の言葉を告げると、側に置いていたタオルに手を伸ばした。