<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第九話 チャウの道と魔術師への恐怖



変な感じがしていることに囚われて肝心なことを全く考えてなかったけど、ルールのギルドマスターのペット、チャウを捕まえるんだったよな。
「ライズに特徴とか聞いてる?」
「クレイジーチャウだということと、カラフルな首輪をつけているって言ってました」
と、そこでレギンさんが呟いた。
「チャウってみんな首輪つけてない?」
「つけてますね」
「色違いだからって言っても・・・コレは大変そうね」
長い戦いになりそうだ・・・。

「そっちどぉだ〜?」
「だめ、見当たりません。」
ルロクスの声に反応してルゼルも叫んだ。
チャウの大量に生息している場所へ到着した俺たちは、手分けをしてペットのチャウを捜索することにしたのだが・・・あまりにもチャウの量が多い。
相手は敵だと思って襲い掛かってくるし、そんなチャウたちをかき分け、逃げつつ、叩きのめしつつ、目的のチャウを探し出そうと言うのだ。
無論、危険なので、ルロクスは俺の横に居てもらっている。
「めんどくさくなってきた…」
ルロクスがげんなりとした顔でぼやき続ける。
「ルロクス、文句ばっかり言ってちゃダメだよ?お仕事なんだから」
「だからってこんなのはさぁ!」
ルゼルが遠くから叫んで指摘するのをルロクスは叫んで言い返した。
「名前を呼んでも反応無し。
首輪の色は探し難いわ、チャウ多いわ…
こんな風になるんなら、飼い主自身連れて来ればよかったわ」
近くでチャウを探してたレギンさんが、珍しくもぼやいて俺の傍に来た。
「…もう、そこらへんのクレイジーチャウを連れてって
『イザベラちゃんです!』とか言ってやろうかしら」
「それはいくらなんでもバレるんじゃ」
ペットの飼い主っていうのは見分けがつくだろうし…
俺は苦笑いをしながら襲いかかってきたチャウを昏倒させた。
ルロクスも俺が攻撃をしたチャウに対して援護攻撃のファイアアローを打ち、チャウ退治に参加してくれてはいるが―――
「めんどくさいぃー」
「がんばれ…俺もがんばるから…」
チャウの首輪を確認しながら倒すのも骨が折れる。
もう我慢できないっ!といった表情でルロクスがあたりに叫びだした。
「イザベラー!出てこいーっ!
出て来ないと、そこにいる一見優しそうな魔術師が
無慈悲にも範囲魔法でここ一帯を焼け野原にするぞー?!」
「ちょっと!ルロクス?!」
慌ててルゼルが声をあげる。
冗談で叫んだんだろうが…モンスター達にとってはちょっと違ったようだ。
ぴたりとモンスターたちの動きが止まる。
次には左右に波が分かれるようにモンスター達が道を作った。
その道の先にいたのは―――
「赤いチャウだ」
「クレイジーチャウよね」
「首輪が色とりどりに見えますけど」
「ってことはあのチャウが―――」
『あのチャウがイザベラちゃんか!』
俺達の声にイザベラちゃんと思われる赤いチャウがびくりと身を縮込ませたのが見えた。
レギンさんがすたすたとチャウの作った道を進み、イザベラちゃんの元に歩み寄る。
「イザベラよね?家に帰りましょ?」
優しい声で言うと片手を差し延べた。逃げる素振りは見せない。
なでなでとあごの下を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。
大人しい子のようだ。レギンさんは両手を差し出し、イザベラちゃんを抱えようとする。
そして動きが止まった。
ど、どうしたんだろう・・・?
「れ、レギンさん・・・?」
思わず問いかけると、
「お、重い…」
予想外の重さにレギンさんは低い声でそう言ったのだった。


「ルロクスの大手柄だね」
「図々しさが功を制したね」
「図々しくねぇよ〜オレ」
イザベラちゃんに繋がっている紐を引きながらルロクスは言った。
本当、あのままチャウ探しをしていてもらちがあかなかったろうし、ルロクスのおかげで今帰り道を歩いていられるのである。
記憶の書やウィザードゲートで飛ばすにこうやって歩いている理由はルロクスの発言でチャウが極度に魔術師―――ルゼルに対して恐怖していたためだった。
このまま書で帰ったら、チャウたちがずっと怖がってそうだったし。
立ち去る姿を見た方が納得するし、安心もするからな…
「チャウって意外と可愛いんだな〜顔もなんか愛嬌あるよな〜」
ルロクスがイザベラちゃんを見ながら言う。
イザベラちゃんには鞄の紐を手綱がわりに付けているのだが、必要無いんじゃないかと思うほどおとなしかった。
暴れて逃げ出したと言っていたが、きっと炎竜のギルド員は相当驚かせたんだろうな。
「これで任務完了ね。これで無事に町中の喧嘩が無くなればいいんだけど…」
レギンさんが心配そうに言った。
その時だ。
前方から人の姿が見えた。