<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第八話 チャウを求めて



「凄い量だな…死屍累々ってやつ?」
ルロクスが口元を覆いながら俺たちの後を歩く。
モンスターが大量に襲ってくるようなそんな場所で、俺たちは戦うことなく先を歩いていた。
戦うことがなかった。
ルロクスの言ったように、道端には力なく倒れているモンスターの数々。
倒したのは−−−
「アイゼンがこの道筋を通ったの、まるわかりね」
レギンさんは呆れつつも、手に持ったダガーをくるくると器用に回した。
「周りを気にしながら歩くのが意味無い感じですね」
ルゼルも苦笑いをしながらレギンさんの後ろを歩いている。
ルゼルの言うとおり、敵が全く見当たらないこの状況下で、周りを警戒して歩くようなことをする必要が無かった。
楽といえば楽。
でもいつ何時モンスターが現れるかもしれないわけで。
「お〜あっちにあんなのが生えてる〜」
「あっちには動く白骨があるわよ〜?」
「ちょ、ルロクス、レギンさんっ」
二人だけが観光気分と観光案内気分で歩いている。
俺は頭を掻く仕草を−−−
?!
俺はそこでなにかを感じた。
なんだこの・・・変な感じは。
どこかで感じたこの感覚。
体の中がざわざわして、落ち着かないような感覚。
なんかあっちのほうから・・・
「なぁ、一つ聞いていいか?」
ルロクスが問いかけ、レギンさんはどうしたの?と答える。
「あっちに、何かあるのか?」
そう言ってルロクスが指を差した先は、俺が感じている感覚がする方向。
「?あっちはチャウが居る場所だけど?
目的地って言ったほうが良いかもね。」
「なんか、変な感じがするんだけどさぁ。」
眉をひそめて言う。だがレギンさんは疑問符を浮かべているようだった。
「変な感じって・・・どんな??」
「どういったらいいかわかんないけどさぁ・・・
レギンは感じないのか?
変な感じするの、オレだけ?」
不安そうに振り向いたルロクスに、俺は『いや』と否定をし、言った。
「俺も変な感じはするよ」
「すみません、僕も変な感じがあっちから・・・」
「じゃあ私だけ感じないってこと・・・?」
困った顔をしているレギンさんを見て、ルゼルも困った顔を見せた。
「まぁ・・・とにかく行って見るしかないわよね?」
こんな変な感じのする場所に行きたくはないが・・・
俺たちは苦笑いを浮かべながらこくりと頷いていた。


「きもちわりぃ・・・」
目的地に近づいていくごとにルロクスがぼやきのようにそう言った。
もちろん俺も、ルゼルも−−−
「大丈夫か?ルゼル」
「一応は・・・。でも何でしょうねこれ・・・」
レギンさんだけ感じていないこの奇妙な感覚。
体の中に刺さるような、ぞわりとするような・・・
そう言えばあの屋敷のときでも俺だけ−−−
「そうか。屋敷の警護の時だ。」
俺はそこで気がついた。この感覚、どこかで感じたような気がしていたんだが、あの屋敷の警護をしたときに感じたんだ。
俺の呟きに一同が疑問符を浮かべる。
「ついこの前、ルアスの町で屋敷の警護をしたことあったろう?」
「あ、イリアル様の屋敷の警護の時ですか?」
ルゼルの言葉にこくりと頷く俺。
あの家にあった家宝の壷。
警護で守らなければならなかった物だったのだが、あの壷と対面した時に感じたあの感覚。
「あの壷と今のこの場所と、感じる感覚が似てるんだ」
「似てるって・・・僕、家宝の壷は見たことないのでわからないですけど・・・
何かあるのかなぁ?」
ルゼルが不思議そうに首をかしげると、レギンさんはルゼル以上に首を傾げた。
「チャウの居る場所に何かあったかしら?」
「チャウの居るところって僕も前に行ったことありますけど、こんな風に感じませんでした。」
「俺もルゼルと同じだよ。前に着たけどこんな雰囲気は・・・」
「オレはここが初めて来る場所だからわかんねぇよ?」
口々に言う。
「もしかしたら、まだ知られてないような場所に何かあるのかも?」
「そうなると炎竜のギルドが躍起になってるものって・・・アイテムとか?」
「もの凄いお宝なの?!」
「手に入れたらたっかい宿屋に何泊でもできる?!」
“おたから〜みつける〜”
「ちょっ!ラズベリルたち?!」
いきなりの登場にびっくりする一同。
目の前にはなぜかラズベリルとルゥ、ミーがいたのだ。
「どうしてここに?」
「資金稼ぎ。文句、ある?」
「・・・どこも財政難なんだね・・・」
ラズベリルの答えにルゼルが苦笑いをする。
「で、みんなでチャウ捕まえに行くの?」
昨日、ずっと一緒に居た分、状況はすぐに察してくれた。
というよりも、だ。
「ラズベリルって、どこに泊まったんだ?今日、朝食食べる前に探したんだぞ?」
俺が思わず突っ込むと、ラズベリルは『ん〜』と考えるそぶりをした。
「昨日は知り合いのとこにいたからなぁ。ごめんごめん」
「ちゃんとラズベリルも一緒に手伝ってくれるわよね?」
レギンさんがにこりと笑って言う。その顔を見てラズベリルが顔を凍りつかせた。
「はい・・・やらせていただきます」
「このねぇちゃん、こわ・・・」
びくついているラズベリルの横で、ルゥがボソリと呟いた。