<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第四話 二つのギルド




ギルド、Rule。
古代の言葉で“決まり”とかいう意味らしいその名前。
だがやっていることはチンピラ同然のようなことしかやってないらしい。
盗賊ギルドからは何か問題を起こしはしないかと監視とは行かないが目を付けられてはいるらしい。
ギルド、炎竜。
昔からあるギルドらしい。
実力のあって一癖もあるような輩が所属しているらしい。
ギルドマスターの男は無駄な争いはしないが、ギルドにはむかうようなやつにはどんな手を使ってでも潰す。そういう信念を持っているらしい。
話を聞いただけでも、敵にしたくは無いギルドである。


「新しいギルドと古いギルドってことで折り合いが悪かったんだけど、
このごろなぜかその状態がさらに悪くなったみたいなの。
突然ルケシオンの中央広場で喧嘩しだして・・・
最初は私一人ででも解決できそうなものだったんだけど、
日に日に悪化していくし、もう手に負えないし
ルアスとかに頼んで騎士団を派遣して貰おうかとは思うんだけどねー」
何かおっかないことを言っているレギンさん。
「オレたちはその“ルール”だっけ?そのギルドのアジトに向かってるってこと?」
「そ。よくはわからないけどよっぽどのことがない限り
“炎竜”が喧嘩を吹っかけることはないだろうから。
Ruleのギルマスと話せば話は早いかなと思ってね」
「でもさぁ?“ルール”って話聞くような人がいる気がしないんだけど?」
レギンさんが考えを口に出すと、ラズベリルはルゥの頭をポンポンと叩きながら言う。
ルゥが動きづらそうにしながらも逃げるそぶりはない。逆にそれをみたミーは『ミーも』
という看板を掲げて二人の周りを飛んでいる。
「話を聞かないようなやつばっかじゃ、行っても意味ないんじゃないの?」
ルロクスがどうしてとばかりに問いかける。
だがレギンさんの代わりにルゼルが首を振った。
「僕たちがそのギルドにいけば、たとえ話を聞かない人ばかりだと言っても
盗賊を束ねる盗賊ギルドが動いているんだってことを見せることができる。
それでけん制をかけることができれば、少しは変わるんじゃないかな?」
「そういうこと。
ギルドのメンバーが盗賊だけなら盗賊ギルドが強行できるんだけど、
ギルドっていろんな職の人が加入しているからね。
ギルド同士の争いは極力ギルド同士で収めてほしいのよ」
「だけどこんなになってしまったから・・・ですか」
俺が苦笑をしながら言うと、レギンさんは疲れたといった雰囲気でこくりと頷いた。
「大変ですね・・・盗賊ギルドの仕事って」
俺がぼそりというとレギンさんは大きくため息をついて見せたのだった。



「俺のかわいいイザベラちゃんを!あいつはぜってぇゆるさねぇんだ!」
とてつもない警戒体制の中、俺たちが連れてこられたのはルールのギルドマスターのいる部屋−−−つまり、チンピラのボスに面会することになったのだった。
見た目にもチンピラの親分ですといった若いその男。瞳はきつく、入ってきた俺たちをギラリと強い目線を投げかける。
簡単に言うと関わり合いたくない相手だ。
・・・で、喧嘩している相手のことを聞いてみたら、開口一番と言った感じで今の言葉を言い出したのだ。当然俺たちはなんのことか分からず状態なのだが、彼はそんなこと、気にすることもなく巻くし立てた。
「彼奴の手下が俺が手塩に育ててたイザベラちゃんに何をしたと思う?
ペパーボムだぜ?
いきなりペパーボムを俺のイザベラちゃんに投げつけたんだぜ?!」
中肉中背のルールのギルドマスターの男−−−ライズさんは腹を立てまくりな様子。
まくし立てているライズさんをあまり直視できずにいる俺。
余りにも表現ができない顔なんだけど・・・え〜と・・・例えるなら・・・
「チャウ・・・」
レギンさんがぼそりと言った。
ちょうど俺が思っていた言葉なだけに、びくっと体が反応してしまった。
だが、チャウに似たギルドマスターは怒ることもなく、逆に『そうなんだよ!』と同意したのだ。
え・・・えぇ・・・?
「そうなんだ、イザベラちゃんはチャウなんだよ。
紅くて可愛いんだぜ」
動物好きらしいルールのギルドマスター、ライズさん・・・。
自分のことを言われてるとは露にも思ってないんだろう。
でもさっき、明らかにレギンさんはこのギルドマスターのことを例えてチャウって言ったよな・・・
「で、あなたのペットのイザベラちゃんがいじめられたから、
ルケシオンで喧嘩をしてるってことですか?」
「あぁそうとも!」
ルゼルの問掛けに胸を張って答えるルールのギルドマスター。
「・・・そんなことでこんな大事件になってるのか・・・」
「そんなことじゃない!イザベラちゃんは海賊要塞の中に走って行ったのはわかってるんだ!なのにあいつらは縄張りだからとかで中に入れさせねぇんだ!
イザベラちゃんが中でどんなに怖い思いをしてるかもわからねぇってのに!」
それを聞いてルロクス以外、眉を潜めた。
「海賊要塞が縄張り・・・?聞いてないわよそんな話」
レギンさんがあからさまに疑いの眼差しを男に向ける。
少し怖いその瞳に、ルールギルドマスターの男はたじろぎながらも
「ホントだぜ?!
あいつら、このところ海賊要塞から人を閉め出して、
しかも門番までつけて入らせようともしやしねぇ。
しかも入れないのは俺たちだけじゃねぇ。
一般人でさえ入らせようともしてねぇんだよ」
その話を聞いてレギンさんに目をやると、レギンさんも首を横に振って見せた。
「それじゃ、お邪魔様でした〜」
ぴりりと冷めたな雰囲気を残した部屋で、ルロクスがなんともあっけらかんと明るい声でライズさんに挨拶しながら部屋を後にした。
「相手はごろつきのギルマスなのに、緊張しなかったんだ?ルロクスくん」
部屋を出ると、門兵のように外で待機していた二人のごろつきに案内されて屋敷内を歩く。その間にレギンさんがこっそりと小さな声でルロクスにそう問掛けていた。問掛けられたルロクスはどうして?とばかりに不思議そうにしている。
「ん?なんで?アイツ、チャウをペットにしてるんだから、結構おちゃめじゃねぇの?」
「お、おちゃめ・・・かなあ・・・」
「・・・ルロクス・・・お前、大物になる素質、ありそうだな・・・」
「ただ単に何にもわかってないだけじゃないかな」
「・・・なんか・・・誉めてないんだよな、ソレ」
様々な発言をする俺たちを見て、ルロクスは少しふてくされたような顔で呟いたのだった。