<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第一話 ルケシオン騒動



「久々…だな」
俺は町をぐるりと見渡してからそう言った。
ここはルケシオン。盗賊の町。
俺たちはルゼルのウィザードゲートでこの町までやってきていた。
俺の横で小さくため息をつくルゼル。
「ウィザードゲート、疲れたろ?宿屋に入ろうか」
「すみません、そうしてもらえると落ち着きます」
そう言った俺の顔を見上げて、にこっと微笑いかける。
「結構疲れてるだろ?背負ってこうか?」
ルロクスが言ってルゼルの肩に触れ‐‐‐まるで何かに弾かれたかのように手を引っ込めた。
「?…どうかしたの?」
心配されている側だったルゼルが逆に心配そうにルロクスを見やる。
ルロクスは思いっきりぶんぶんと顔を横に振っていた。
「ルロクス、どうしたんだ一体?」
「いや…あ〜…うん、なんでもないっ。
まずは宿屋だよな、うん」
歯切れの悪い言葉で答えると、ルロクスはくるりとルゼルから背を向けた。
「「…?」」
俺とルゼルは不審そうに顔を合わせたのだが、ルロクスの『早く早く』と言い声に急され、俺たちは宿へと足を向けることにしたのだった。


「ジルさんと旅をして結構経ちましたね」
宿屋の一室。外を見ていたルゼルがぼうっとしながら言った。
「海賊要塞で会って、ずっとだからなぁ」
俺も外を見やる。
「そっかぁ…前来たときもこんな風な町だったのか〜?」
ルロクスが呆然としながら町の外を見やっている。
この部屋の窓から見える光景。
そこには町の中央で乱闘が…いや乱戦といえばいいのか…取っ組み合いの喧嘩がいくつも繰り広げられていたのだ。
そのせいで俺たちは借りた宿屋の一室から出ることができず、足止めを食っていたのだった。
見ているとその喧嘩は、全く関係のない旅人にまで被害が及んでいるのが分かる。
「…僕、町の中心に飛ばなくて、良かったですよね…」
「うん…ほんとだよな…」
ルゼルとルロクスは窓の側に椅子を持ってきて、座りながらその光景をぼーっと見ている。
俺たちが町に来て、この宿を取ってからかれこれ二時間経っているはずだ。それなのにこの喧嘩はずっと続いている。
「体力よく続いてるよねぇあの人たち」
「いや、なんか喧嘩してる人、入れ替わってるみたいだぜ?」
「…疲れたら交代〜って感じにか?」
俺が問いかけるとこくりとルロクスは頷いた。
「喧嘩してる人が交代してるだなんて…何か大掛りな喧嘩なんですかねぇ」
「大掛りなって…でもこんなんじゃ酒場に行くにしても、店に行こうにも、絡まれること受け合いじゃないか?」
「ん…じゃあ、絡まれないようにジルコンがずっと怖い目をして周りを圧倒しとけば…!」
「そんなこと、俺ができると思うか?」
ルロクスが俺に無茶な注文をする。
即否定をすると、ルロクスは『だよね〜っ』と言ってけらけらと笑った。
「でもそれじゃあ出れないじゃん?夜までこのままなのか?」
「夜もこのままかもね…」
ぼそりと言ったルゼルの言葉に渋い顔を見せるルロクス。
でも今ルゼルの言ったことは間違いじゃないと思う。
「ひっきりなしに人が来て、ずっと戦ってるな・・・
今日は諦めて宿屋でゆっくり過ごすとするか」
俺は諦め口調で言うと、ベッドへどさりと座った。
「仕方ないですよね」
と、ルゼルも諦めて荷物整理をしだす。
「夕飯の時間までに終ってるよな…?」
そのルロクスの願いは脆くも崩れ去った。
そう、中央広場で繰り広げられていたからだ喧嘩は夜遅くまで続いたのだ。
結局、俺たちは外に出ることができず、夕飯は野宿のときと同じ、干し肉だった。