<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第十九話 求める希望の先へ



ヤガンさんからいただいた報酬は、当初契約していたスズのインゴットと−−−話には無かったグロットの袋。
そして−−−
「お前等が集めてるのは、宝石だったよな?大きめの」
「あ、はい。そうですけど」
身振り手振りで宝石の大きさを言うヤガンさんに、ルゼルはこくりと首を縦に振った。
するとヤガンさんはにかっと笑って言う。
「お前等に必要なもんかどうかわからんが、
でっかいルビーならサラセンの闘技大会の商品として出るらしいぜ。」
「サラセン・・・ですか」
俺は自分の故郷の名を言われ、少しだけ驚いた。
故郷の事だから、闘技大会はこの時期にあるのはもちろん知っているし、小さいころよく見に行ったりしていたが・・・。
「じゃあその闘技大会で優勝すればルビーを貰えるってことか!」
ルロクスが喜んで言う。
だが俺は完全に喜べなかった。ルロクスが闘技大会のことをまったく知らないから喜べるだけで・・・
俺は思わずヤガンさんに問いかけた。
「あの、それ以外に・・・宝石の情報ありませんか?」
問われたヤガンさんは、俺の顔を見ながら豪快に笑った。
だって・・・闘技大会なんて、勝てる気がしない。
俺の師匠みたいな人達が大勢出るようなもんだぞ・・・?
「どうしたんだよ?ルビー貰うために闘技大会、出ないのか?」
「・・・。」
俺はじと目でルロクスを睨んだ。
そんな気楽なことを言って・・・まだ俺、あんな強豪の中で勝てる気がしないぞ・・・
「ま、とりあえず行ってみることだ。・・・っと」
そこでヤガンさんの机の上にあったWISの珠が光った。
「それじゃあ、おいとましよっか?」
ルゼルがルロクスに言い、俺もこくりと頷いた。
『玄関まで送るわ』とラズベリルとルゥ、ミーが着いてくる。
「それではありがとうございました。失礼します。」
俺が挨拶をすると、ヤガンさんは忙しそうにWISの応対をしながらも俺たちに向かって手を振って見せた。
その横に居たレギンさんはにっこりと俺たちに笑いかけると、『こちらこそありがとう』と小声で挨拶を返してくれたのだった。


「サラセン、行きますか?」
玄関口でラズベリルに見送られながら盗賊ギルドから出た俺たちは、宿屋へと脚を向けていた。
その途中、ルゼルが俺にそう問いかけてきたのだ。
思わずうーんと唸ってしまう俺。その様子をみて、ルロクスは不満の声を上げる。
「えー?!行かないのかよっ!?」
その声を聞いて申し訳なさそうにルゼルが返事をした。
「行っても闘技大会に出て、優勝して初めて手に入るようなものじゃ・・・
もっとその・・・平和的に手にいれたいなぁって」
「そんな・・・大きめの宝石っていろいろ露店みたけど見つけるのも大変だったじゃん。
値段も高いしさぁ。
ルビーって必要なやつだし、手に入れれるならって思わねぇ?
セルカを早く助け出したいんだろ?」
「そうだけど・・・」
ルゼルはそれだけ言って押し黙ってしまった。
ルロクスの言い分も尤もだけど・・・手に入れられる自信が全く無いぞ?
ルロクスも、むうっとした顔をして黙ってしまう。
俺はルロクスに声をかけた。
何故かルロクスが急いでいるような、そんな気がして。
「ルロクス、急ぎすぎてもいい事は無いぞ?
サラセンにまだ行ったことないから、行ってみたいのもわかるけど」
「そういうことじゃないっ!
でも・・・急いだ方が良いって思うんだ・・・」
ルロクスは地面に視線を向けて落ち込んだような様子を見せた。
うーん・・・困ったなぁ・・・
宿屋にたどり着いても二人の様子は変わらず、重い雰囲気のままだった。
自分の部屋の前に着た俺は、ふうっとため息をひとつ吐いた。
し、仕方ない。あまり気乗りはしないけど・・・
「サラセン、行くだけ行ってみるか?」
『!?』
二人が同時に顔を上げる。
「た、大会には出ない方向で・・・」
二人のその見えない気迫に押され俺はおずおずというと、ルロクスは大喜びし、ルゼルは『すみません』と苦笑いをしながら言ったのだった。
「あっついこの場所ともおさらばだ〜!」
ルロクスは部屋の中に入ると、窓を勢いよく開けたのだった。



第三章 ルケシオンの抗争  完。