<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第十四話 攫われたルゼル



「っ!」
レギンさんはアイゼンさんと同じく、記憶の書を開くと石を手にする。
「ルゼルを追うんだな!」
ルロクスが言うとレギンさんは何も言わずに書を発動させた。
「ちょっとっ!置いてかないでよっ!」
ラズベリルが声をあげ、ルロクスの腕に掴まる。
ルゥとミーもルロクスが連れていたチャウに抱きついた。
「くっ!逃がすなっ!」
ドランさんの声もむなしく、俺たちは記憶の書の力によって別の場所へと逃げ飛んだのだった。


ルゼルを連れ去った場所の手がかり。
アイゼンさんがどこにいるのかという当て。
れぎんさんは知っているものだとばかり思っていた。
あの時、記憶の書で飛ぶのも、アイゼンさんを追うためなんだと思っていた。
だから−−−レギンさんがチャウを元の飼い主へと送り届け、“輝宝石”を盗賊ギルドのヤガンさんへと渡してからは、ルゼルを追うために動くのだと信じて疑わなかったのだ。
−−−そう、ここはルケシオン町の盗賊ギルドマスターである、ヤガンさんの部屋。
「レギン〜、早くルゼルを探しに行こうぜ?」
ルロクスの声掛けにレギンさんは首を横に振った。
嫌な予感を感じざる終えなかった。
レギンさんが言う。
「アイゼンの居る場所なんか、分からないわ」
俺は即座にヤガンさんを見た。
ヤガンさんもレギンさんと同じく首を横に振る。
「ちょ・・・ちょっと待てよ。ルゼルはどうなるんだ?」
「明日、取引をして無事に帰ってくるわ」
「そんな呑気な!」
ルロクスがレギンさんに食って掛かる。
俺は何も言わずにレギンさんを見つめていると、レギンさんは俺へと視線を合わせた。
「アイゼンはルゼルくんに危害を与えるようなやつじゃない。
だから大丈夫よ」
「でも!だってよ!」
「私もルロクスと同意見ね。
どうして町中探そうとしないのよ?」
横で聞いていたラズベリルが胸の前で腕を組みながら、怪訝そうに行った。
その答えをヤガンさんが言う。
「逆に危険な目に合わせる事になる。だからさ」
そして俺を見てヤガンさんは言った。
「今日のところは我慢してくれ。
明日、アイゼンは必ず無事にあのルゼルを連れて来る。
だから今は」
「・・・っ!ラズ!
お前アイゼンがどこにいるか、検討つかないか?!」
「検討はつかないけど・・・街中案内なら!」
「待って二人とも!」
ヤガンさんが言う言葉を聞かずに走り出そうとする二人を、レギンさんが怒鳴って引き止めた。
「探し出そうとうろうろすれば、“輝宝石”を狙うドランに何されるかわからない。
それに、アイゼンとルゼルくんを見つけたとしても、逆に二人を危険な目に合わせちゃう。
アイゼンとルゼルくんも、ドランが欲しがってるものを持っているんだから。
−−−私の言いたいこと、分かるわよね?」
ひたりと見据えてレギンさんは言った。
ルロクスのもどかしい気持ちは俺にも痛いほど分かる。
でも−−−だ。
「じ、ジルコン・・・」
「・・・きっと大丈夫だ」
俺はそれだけしか答えられず、拳に力を込めてこのこみ上げる気持ちをやり過ごすしかなかった。