<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第三章 ルケシオンの抗争



第十一話 求めし宝



「俺が手にする前に奪われたんだがな」
ドランさんの驚く声とは真逆のように、アイゼンさんの冷静な声が続いた。
そして姿を見破られたことにも動じることなく、アイゼンさんはドランさんと対峙する。
「まぁ、俺としてはアイテムを探す手間が省けたが。」
「どういう意味だ」
怒りが篭った問いかけを無視するようにアイゼンさんは無言だった。
その様子にドランさんは守りの体制に入った。
「あの宝はわたさねぇ」
「ほぅ・・・ということはアイテムはもう発掘し終えたか?」
「・・・っ!」
ドランさんが渋い顔を見せた。
双方に緊張が高まりつつある・・・
そんな中、俺たちは数歩下がっておいた。
何かが起こりそうな状態ではあるが、今俺たちが何かやったとしてもこの事態が収まるようには到底思えない。
レギンさんも同じ考えに行き着いたんだろう。何も言わずに下がったが、ドランさんとアイゼンさんの動きだけはずっと凝視してる。
噂され、畏怖されるほどの盗賊であるアイゼンさん。レギンさんの話や噂のことを考えると、実力は嫌と言うほど感じてしまう。
強そうなレギンさんですら余裕を見せない相手−−−アイゼン。
敵には・・・回したくはないな・・・
そんな人を相手にして、ドランさんは無言のまま手下たちに手を振り、合図した。
足音静かに、手下たちはアイゼンさんの周りを取り囲んでいく。
「無理ね」
レギンさんが誰に言うでもなく呟いた。
それと同時に−−−
ドサッ・・・
音と共に手下の一人が崩れるように倒れた。
アイゼンさんの真正面に居た手下だ。
何がなんだかわからないと、手下たちの中に少しの恐怖心が芽吹く。
「あの人・・・なんで倒れたんだ?」
「・・・」
ルロクスの呟きにルゼルも答えられないらしく、『助け舟を・・・』という目で俺を見上げた。
俺は苦笑いをしながら説明してやった。
「拳をね、アイゼンさんが何発か入れてたんだよ」
「一瞬で?アイゼンが?」
信じられないという顔で問いかけてくるルロクスに俺は頷いておいた。
アイゼンさんは、ひるんでいる手下を一瞥した後、全く意に介していないといった様子を見せながらドランさんへ近づくように歩みだした。
そしてドランさんの近くにいた男の前に立った。
さっき、ドランさんも話しかけていた作業員の長らしい男だ。
鋭い瞳でアイゼンさんに睨まれたその男は、明らかにひるんでいる。
そんな男にアイゼンさんは低い声で言った。
「アミュレットはどこだ」
男はその一言だけの言葉に、一層恐怖を書き立てられたようだった。
ドランさんの顔をちらりと見た後、ほんの一瞬だけ、目を有る場所へと泳がせた。
それを見逃さなかったアイゼンさん。
その方向にあった穴へと走り出す。
今さっきドランさんが自慢げに見せようとしていた穴とはまったく別の穴へと。
「っちぃ!アイゼンを止めろ!」
ドランさんは怒鳴ったが、もうその時にはアイゼンさんの姿は穴の中。
1分も立たずに出てきたその手には、銀色に光る何かを携えていた。
「あれ・・・?あっちの穴なの?こっちじゃなく?」
ラズベリルが至極不思議そうに言う。
それを聞いたアイゼンさんは『ふむ・・・』と声を出した。
「そっちにもあるのか」
「ないっ!
ここはもう掘り起こしたあとだ!なんもねぇ!」
ドランさんが興奮気味に言った。
「なにもない・・・か」
アイゼンさんが鋭い目つきで、何か思案している様子だった。
「あの・・・レギンさん」
俺は緊迫している空気を壊さないように小声でレギンさんに話しかける。
話掛けられたレギンさんも俺が言いたいことは解っているようで、目線をちらりと合わせた後、頷いて見せた。
そしてレギンさんは二人の空気を割って話出す。
「とりあえず私らは帰るわね。
チャウも見つけたことだし、ここに居る必要はもう無いんだし。
あ、そうそう、アイゼン、今度盗賊ギルドに来ていただきたいわ」
『行きましょ』といってレギンさんはかばんから記憶の書を取り出す。
俺たち三人の気分が悪い上に自分たちとは全く関連が無い・・・とはいえないかもしれないが、当事者ではないんだし、ここに居ても意味はない。
火の粉が降りかからないうちに帰ってしまうのが得策、そう思ったのだ。
だが、ドランさんはそれを許さなかった。
「レギン、お前のその強さと速さが必要なんだよ」
そう言って手下たちに目配せをした、
するとさっきまでアイゼンさんに対して怯えていたはずの手下たちが嘘のような速さで走ってくる。
二人の手下がレギンさんへと、そしてもう二人の手下が俺たちのほうへと。
レギンさんはムチでけん制し手下二人の歩みを止めたが、俺は向かってきた手下一人の剣をよけるくらいしか出来ない。
そこで、俺に向かってきたのが手下一人だというのに気がつく。
も、もう一人は?!
「えっ!」
「んなっ!」
全く予想外の行動に慌てるルロクスと、体調が悪くて動けない様子のルゼルに向かって、手下一人が走り迫っている。
「っく!」
俺は二人をかばうように間に割って入った。
手下一人を引き連れた形で、ルロクスとルゼルの前に立つ。
数的には2対3だが、ルゼルは動きづらそうだし、ルロクスはまだ1人を任せられるといった力は持っていない。
さてどうしようか・・・
思ったそのときだった。もう一人の手下が動いたのは。
一人に対して集中していた俺はとっさに反応するのが少し遅かった。
そこを狙ったかのように手下は走りこむ。
俺を迂回して、ルゼルとルロクスの方向へと。
「!?」
ルゼルとルロクスの身が危ないと思いきや、白羽の矢が立ってしまったのは意外にも−−−
「ルゥっ!ミーっ!」
ルゥとミーが手下の腕に抱え込まれ、捕まってしまったのだった。