大広間の前に居た護衛は倒れ、心地よい眠りに誘われていた後だった。
「すっ、素敵仮面!」
ばんっ!
俺が大広間に飛び込んだのは素敵仮面が入り込んですぐのことだった。
俺の後方では混乱しているダイスはルロクスとルゼルのフリーズブリードで足止めをされている。
「大変そうなんだから、私にかまうことはないのに〜」
「その大変なことにしたのはどこのどいつだ!」
俺が突っ込むと素敵仮面は腕を組みながらも壷の元へとすたすた歩いていく。
「ちょ!止まれっ!」
「そう言われて止まる怪盗はいないと思うよ〜?」
そして素敵仮面は壷を手にとって息を漏らした。
「ほぅ・・・これはなかなか・・・」
「!お前っ!その壷から手を離せ!」
ダイスの脇をなだれ込むようにして入ってきたイリアルが怒りの声を上げた。
と同時にルゼル、ルロクス、アイベリックも走り込んでくる。
「いい加減、お前捕まれよっ!」
「捕まっては、今まで集めに集めてきた知識が無駄になるってものさ!
こういった古代の知識や文献は、
私のようにすばらしく活かせる者がつかわなくっては!」
「そのすばらしく活かせるって言うのが胡散臭いし・・・
っていうよりも、人のものを勝手に奪うようなこと、許されるわけないだろうが!」
ルロクスが怒鳴り、足を床へ何度か打ち付ける。
そして我慢ならないといったように魔法を連打し始めるルロクス。
「フリーズブリードっ!フリーズブリードっ!」
「ハハハハハ!
私は素敵に無敵に不適−−−じゃなかった不敵!素敵仮面!!」
「自分で言い間違えてるぞ・・・アイツ」
「こんなヤツに・・・っ」
よろよろと危ない足取りでダイスが俺たちの後に続いて部屋の中に入ってくる。
隣にはアイベリックが体を支えるように手を添えている。
どうやら混乱は解けたようだ。
「フリーズブリード!」
一度俺に目配せをしてから素敵仮面へと攻撃を仕掛けるルゼル。
俺はその意図をはっきりとわかっていた。
「ハハハハ!
せーふがー−−−」
素敵仮面が飛んでくるフリーズブリードを華麗にかわそうとする。
今だっ!
俺は走りこむと素敵仮面の懐へと入り込んだ。
そして、壷をさらうように捕まえて−−−
「っ!」
俺は一度壷を落としそうになる。
手が滑ったわけでも、手の力がなくなったわけでもない。
体全体に何かが走ったのだ。
電気のような、熱いような、冷たいような、よくわからない感覚。
この壷を・・・持ったから?
「あま〜い! とう!」
「させません!」
素敵仮面が俺の壷を狙って俺に何かを仕掛けようとしたとき、ルゼルがその間に割って入ってきたのだ。
とっさのことで素敵仮面も勢いを殺すことはできなかったらしい。とんっとルゼルの体を後ろへ押すような形になる。
体勢が崩れたルゼルは俺へと倒れこんできて−−−
いぃぃぃん!
壺が…鳴くような音がした。
壷が、鳴いている?
な、なんなんだ?!
何がなんだかわからない。俺は一瞬混乱しかけた。
だが次の瞬間には−−−
「もらったよ!」
素敵仮面の声で我に帰る。
そのときには素敵仮面は華麗に壺を抱え、ぱりぃんと窓を破って逃げようとしていた。
「やっろ!逃がすかぁ!」
「他の警備は何をやってる!!アイベリック!ダイス!
追えっ!」
あの壺…何なんだ…よくはわからないが凄まじい力を秘めているような気がする。
あの壺をあんなよくわからない怪盗に盗まれたら、悪用されてしまうかも知れないぞ…!
その考えにたどり着き、ぼーっとしていた頭が覚醒する。
「い、イミットゲイザーッ!」
俺は渾身の力を拳に集め、打ち出す。
「渡してっなるものかぁぁっ!!」
力を込めた一撃。
でもそれは自分が思っていた以上の、いや、いままで見たことのないようなイミットゲイザーだった。
光は大きく、窓から飛んで外へ出ていた素敵仮面の手元に当たる。
「なあっ!」
当たった反動で壺が再び地上へと落ちて行く。
このままじゃ、地面へ−−−!?
だが、落ちる場所にいたのは…
「よくやった!傭兵その1とその2!」
イリアルが喜ぶ。
落ちて行く壺の下にいたのは素敵仮面を追って出てきていた傭兵たちだった。
さすがの素敵仮面も二十人以上の傭兵を相手にするのは分が悪いと感じたらしい。
スタッと塀の上に立つと、こちらをびしっと指差す。
「しかたない!君達の優秀さに免じて、その壺は諦めるとしよう!
私の名前は素敵仮面!怪盗、素敵仮面は未知を追い掛ける!
では、さらばだ!」
「…にっ…二度と来るな〜〜ぁ!」
高笑いをあげて去っていく素敵仮面の後ろ姿にイリアルが怒りの声を投げつけている。
「……なんとか…なったのか?」
ダイスが疲れた顔をして俺たちを見やる。
アイベリックはこくりと無言で頷いた後、情けないとばかりの声で言った。
「あんな変な、わけのわからないやつに…ここまで揺さぶられるとは…」
その落ち込み様を見てルゼルは首を横に振って見せた。
「あの素敵仮面っていう人、侮れないと有名みたいですよ。
吟遊詩人なのに怪盗、動きの素早さと技から、
アスク帝国騎士団でも手を焼いてるんだとか…」
「そんなやつからお宝を守れたってことは…結構すごいってことにしとくか…」
「あぁ…疲れた…」
ダイスのあまり納得のいかない様子の言葉に、ルロクスははぁっと溜め息をつき、心底疲れた顔をして言う。
素敵仮面が飛び去っていった塀の上には、白く明るい月が雲の間からそっと顔を出していたのだった。
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