<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第一章 ルアスの町の怪盗



第七話 素敵に無敵



「ムカつく仮面!!いいかげんにあたれってぇの!!
フリーズブリード!」
「ははははは!私の名前は素敵仮面だよ君!
セーフガード!」
ひらりひらりと攻撃をかわしている素敵仮面。
いい加減、気力も体力も尽きてきたオレ−−−ルロクスは、ぜいぜいと肩で息をはきながら素敵仮面を追い、屋敷中を駆け回っていた。
「だあ〜もう!どうにかあいつを止めないと…あの壺取られちまぅ!」
「ほほ〜…その壺っていうのが、“古代の遺物”なんだね?」
仮面の下でにやりと笑ったのをルロクスは感じ、ぞくりと身がよだつのを感じた。
…こいつ…今オレが言った言葉で自分が狙っている物が壺だとわかったのか…?
ってことは−−−
「お前!自分が何を狙ってんのか、わからずに犯行予告したのかよ!」
「はははは!私は“古代の遺物を奪い取りに参上する”とは書いておいたはずだけどね!」
「それが壺でもいいのかよ…」
オレはげんなりとして攻撃する手をやめてしまった。
そこをついた素敵仮面!
「さぁ、私も忙しい身だし、君も踊ってもらおうか!
スローフォークダンス!」
「やらせない!
イミットゲイザーッ!」
声はオレの後方から聞こえた。


「ルロクス!大丈夫か?」
俺、ジルコンは素敵仮面と対峙していたルロクスに走りよる。
ルロクスは、コクリと頷いて再び素敵仮面を見やった。後方から走ってくる音と声。
「ルロクス!平気?」
「でかした!足止めしてくれてたか!」
ルゼルの不安そうな声と共にイリアルが嬉しそうに叫んだ。
そんなイリアルをかばうように前へ出るアイベリックとダイス。
「さんざんひっかきまわしてくれたな素敵仮面!」
「仮面剥がしてアスク帝国騎士団に引き渡すから、そのつもりで。」
ふたりとも、頭に血が上ってるような気がする…それを助長させるように素敵仮面はにんやりと口許を引きながら言った。
「ははははは!
この私がそう簡単に捕まると思ってるのかね!」
言うと素敵仮面は背中に背負っていたギターを手にする。
「させるかっ!フリーズブリード!」
「フリーズブリードっ」
ルロクスとルゼルの同時攻撃をしかける。
だが−−−素敵仮面は華麗だった。
「は〜っはっはっは!せ〜ふ〜が〜ど〜ぉ〜!」
言いながら乱れ飛ぶフリーズブリードを避けきる。
「ははははは!
私は素敵!
素敵仮面なのだよ!」
高笑いを上げている。
−−−だが、そうそううまくはいかせはしない!!

「イミットゲイザー!」

べちっ

「痛ぁああああ!」
俺の放った、修道士で数少ない遠距離攻撃できるスペルのうちの一つ!
イミットゲイザーッ!
そして隣も黙っているような人たちではなかった。
「パージ、フレア!」
素敵仮面の足元に魔法陣が浮かび上がる。
だが、痛がっている素敵仮面にはその発動音は聞こえてはいなかった。
想像していたとおり、
「アイタぁ!」
直撃してその場で飛びはねている素敵仮面。
その隙を見逃すわけがない俺たち。
「でぇりゃあああ!!」
「はぁあああっ!」
「えっ!?あっ?!暴力反対だよ君達っ!」
俺とダイスが向かってくるのをびびりながらもするりと後方へ逃げていく−−−
が、させるかっ!
素敵仮面の正確な位置は分からないまま、感覚だけで右横へと攻撃を繰り出した。
その攻撃は−−−見事に素敵仮面の脇腹を直撃する。
「ぐはぁあああ!」
…そこらへんのモンスターをどついてもあげないような悲鳴をあげて、べちっとその場に叩き落とされた素敵仮面。
手が…ぴくぴく動いてる…
「でかしたジルコン!」
ダイスさんが声をあげる。足の動きで先の動きを知る…師匠が扱きに扱いてくれた技だ。
あまりにも足の速い盗賊には通用しなかったけど…今回は役立ったな。
ほっとしながらも、まずは素敵仮面を押さえ込んでおく俺。
「さて、口ほどにも…あったのかなかったのかわかんねえが…
とりあえず!これで茶番は終りだ素敵仮面。」
「うちの家宝を狙おうとしたバチがあたったんだ!
しっかり牢屋に入ってくるんだな!」
イリアルがアイベリックの後ろで叫びながら笑う。
そして俺へと視線を向けると、嬉しそうに言った。
「ジルコンって言ったっけ?よくやったな君!
後で僕からも褒美をやるからな〜」
言いながらイリアルはいまだ寝そべったままの素敵仮面の背中に足を乗せる。
「ちょっ、イリアル様っ、行儀が悪うございますよ。
足を退けてくださいませ」
ルゼルの指摘にうっと唸ったイリアル。
だがその唸り声とは違った声が下から聞こえてきたのだ。
「ううふふふふふふふふふ…」
びくっ!な、なんか不吉な声が聞こえる…俺に押さえられたままの素敵仮面が廊下に突っ伏して居る状態だというのに、何故か不敵な笑いを発し出したのだ。
そして−−−
「ぬおっ!くっ!」
二、三度、じたばたっと暴れる。
・・・無論、俺が押さえているわけで・・・
だが素敵仮面は気を取り直したように笑い出したのだ。
「はははは!この私がこんなことに屈するわけがないのだ!」
そういうとずっと持っていたハープを器用に爪弾いた。
ぽろんと一音、音がする。
「けっ、それだけじゃなんの攻撃にもならねぇ−−−」
そこで声が止まった。
「?どうしましたダイスさ−−−」
そう言ったルゼルの前にすいっと寄るダイス。
鞘に手をかけているそのまま−−−
っ!!!
俺は慌てて素敵仮面を放り出し、俺の傍に居たルゼルの手を引っ張り寄せる。
ザンッ・・・・
風が鳴く音が聞こえる。
ダイスがいきなり剣を振るってきたのだ、ルゼルに。
「・・・?・・・?!」
突然のことでよくわかっていないルゼル。他の全員がよくわからないといった状態で立ちすくんでいる。
「い、一体・・・何をしたんだ?!」
俺はさっきの場所からは離れた場所で得意そうに仁王立ちをしている素敵仮面に向かって言った。
「ん〜?
“コンフュージョン”っていうんだけど。
血気盛んな人だったんだねぇ。仲間に斬りかかるとは・・・
ちなみに持続時間っていうのもあるから、放っとくとまた斬りかかりにくるかもね。
念のため−−−
セーフガードと〜サポーターズ〜」
言って俺たちに補助スペルをかけていく素敵仮面。
「これで大丈夫だとは思うけど〜
じゃ、そういうことで」
と言って逃げ去ろうとする。
「おぉ〜!」
「ちょ、ダイス!気を確かに!」
「うわっ!なっ!切りかかるなよおい!」
素敵仮面を追わなきゃいけないのに、ダイスが混乱しているために追いかけることができない・・・
「あぁ!僕の家宝が!」
イリアルが叫んだとき、素敵仮面の姿は家宝がある大広間の扉の中に消えていった後だった。