<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第一章 ルアスの町の怪盗



第六話 素敵仮面参上!



あ、あれがもしかしてさっきイリアルが言っていた“素敵仮面”とかいう怪盗なのか…?
俺は壁の上にいる人物を見上げていた。
なぜか高笑いをしているその人は、よく見てみると不思議な格好をしている。
ヒラヒラとしたあの服は…吟遊詩人?
でも・・・男・・・だよな?
あんなピンクい服なんか、吟遊詩人って着るのか・・・?!
「はははははは!」
なぜか無駄に高笑いをしているその吟遊詩人の後ろでは未だに打ち上がる花火。
は、華々しく登場ということなんだろうか…。
よくよく見てみると片手を後ろに回しているような…
じ、自分で花火を上げてる…?
こ、この人、予告状送ってきた怪盗だよな…
こんな派手なことをしたら、傭兵ががすっ飛んで…
「お、お前、盗みにきたとか言う怪盗かっ?!」
俺はとりあえずだったが、そう叫んでみた。
すると素敵仮面らしいその男は再び高笑いをする。
「そう!私はここにあるはずの、すばらしい逸品を見せてもらいにきたんだよ!」
俺は黙って臨戦体制を取った。
未だに打ち上がっている花火の賑やかさで、誰か後方から走ってきていることも、相手が屋敷の壁上に居るわけだから攻撃ができないということもわかってはいたんだが、いつ何時攻撃をされるかわからない。
相手は怪盗。
あの不思議な壺を狙ってきているからには、意地でも奪い取りにかかるはずだ。
それに、吟遊詩人と戦うなんて初めてなことで、相手が何をしてくるのか皆目検討がつかないのだ。
だが素敵仮面は『うんうん。』と頷くと、
「真面目だねぇ。そんな君にはこれをプレゼントしよう!
ミュージックコントロール!!」
何かの発動呪文と共に、俺の体に何かがまとわりつく。
そして足が勝手に一歩進む。
そしてそのまま自分が思ってもいない方向に動き出してしまう。
しかもそれが止められないぃぃっ?!
「ちょっ、な、これ?!」
「堅くるしいのはいけないよ〜!楽しく踊るといいよ!」
あ〜まだ勝手に動く…それを見て素敵仮面は『とぅっ!』と掛け声を上げながら地上へと飛び降りてくる。
そして数秒動かないでその場につっ立っている素敵仮面。
も、もしかして着地の衝撃で足が痛いのを堪えているとか…か?
「じ、ジルさん!」
「?なにしてるんだジルコン」
丁度その時、どうしたんだとばかりにルゼルとルロクス、そしてアイベリックとダイス、イリアルの五人が駆け寄ってきたのだ。
「…ジルコン、なに楽しそうに踊ってるんだ?」
ルロクスの冷たい視線に俺は慌てて否定をした。
「違う!好きで踊ってるわけじゃないんだ!この素敵仮面のスペルで‐‐‐」
「説明をを聞いてるよりも、実際にスペルを受けてみればわかるさ!
ということで、ミュージックコントロール!!
てぃ!てぃっ!てぃ!てぃっ!てぇ〜ぃ!」
素敵仮面は五人に向かってスペルを放つ。思った通り、みんな踊り出す。
「な、あわわっ!」
「これはっ!?」
「なんだこれっ!気持わるぃ!」
「くっ…しまった…」
だが素敵仮面は『あぁっ!』と声をあげたのだ。
「君っ!運がいいね!私のスペルを避けるなんて!」
「…オレにその変なスペルかけようとしたの、順番的に最後だったからなぁ。
だからとりあえず、踊ってるイリアルを盾にしてみた。」
「なっ!ルロクス!お前、依頼主を盾にするなんて
傭兵の風上にもおけない奴なんだぞ!」
「いい。だってオレ、風下だから。」
さらりと言いのけるルロクス。
ルロクスは素敵仮面のミュージックコントロールを避けることができたらしい。
だが素敵仮面は余裕満々なそんな様子で俺たちを見ている。
「まあ、ここにいる過半数は楽しそうにしてることだから、
私は私のなすべきことをしようではないか。ということで!」
そう言うと、さっと屋敷の入り口へと走っていく素敵仮面。
や、やばい!
「ルロクスっ!あいつを止めろっ!」
「りょ、了解っ!」
俺の声にルロクスが反応し、即、何かのスペルを唱え始める。
そして‐‐‐
「フリーズブリードっ!」
そうか、足を止めることができるそのスペルなら、素敵仮面を捕まえられる!
だが俺が思っていたよりも素敵仮面は…素敵だった。
「ははははは!」
高笑いをしながら、ルロクスのくりだしたスペルを避けていく。
「な?!」
「避けたのか!」
アイベリックとダイスがそれを見て少し慌て出す。
「いかん、このままだと…!
魔術師少年!フリーズブリードを撃ちまくるんだ!」
「とにかく奴を止めろ!!」
アイベリックとダイスが叫ぶ。
ルロクスは高笑いをしながら走っていく素敵仮面に向かって‐‐‐
「フリーズブリード!
フリーズブリード!
フリーズブリードぉ!」
「はははははは!
セーフガード!
セーフガード!」
ひらりひらりと魔法球を避ける。
「なんだあの回避率は!?」
ダイスが驚いている中、俺のかかっていたスペルの効果が無くなったらしい。
思わずたたらを踏む俺。
「あ〜ムカつくっ!
フリーズブリードっ!
フリーズブリードぉ!」
「セーフガードっ!
セーフガードぉ!
はっははははははは!」
俺だけスペルが解けたことに素敵仮面は気付いていないようで、ルロクスが繰り出す魔法をひらりひらりとかわしながら笑っている。
…今しかないっ!
俺は一気に走り寄り‐‐‐
「スローフォークダンス!」
え?あ、足が重く…?
「そしてさらにミュージックコントロール!」
ま、また踊らされる俺…。
「君も私みたいに華麗に回避できるようにならなきゃだめだよ!
踊っていれば素早さも上がるから!」
「こんなのであがるかっ!」
アイベリックが突っ込む。だが素敵仮面はそんなことなどものともせず、高笑いをして屋敷の中へと入って行こうとした。
だが玄関前にはたしか、傭兵が五人くらいいたはずだ。
あの人たちが足止めをして阻止してくれるは‐‐‐
「さぁ、みんな素敵な歌を聞かせてあげよう!」
言うと素敵仮面は腰につけていたハープを手に持った。
そして−−−
「こ〜もりぃ〜うたぁ」
なぜか音程の外れているような、鼻歌のような、そんな歌を歌いながらハープを鳴らした。
するとなぜか傭兵たちの動きがぴたりと止まる。
しばらくして−−−

バタッバタッバタッ!

崩れ行くように傭兵たちがその場に倒れ込んでしまったのだ。
「ははははは!」
素敵仮面は高笑いをあげたまま、屋敷内へと入っていく。
「あんにゃろう!待てぇ〜っ!!」
ルロクスがムキになりながら素敵仮面を追って屋敷内に入る。
俺たちは追うこともできず、ただひたすらにスペルの効果が切れるのを待つしかなかった。
でもあの素敵仮面というあの男…
「あんな不思議な格好していましたけど…すごいですね…」
ルゼルが勝手に動いてしまう自分の体を見て、苦笑いしながら言う。
「あの子守歌って一人にしか効かないスペルでしたよね…
何で五人にも…」
「…それだけあなどれないってことだろうな…
詩人の女服みたいな、どピンク服だったが。」
ルゼルが疑問そうに言い、ダイスが怒りながら言う。
「素敵仮面か…ジルコン、奴を見習ってみるか?」
「わ、わざはすごいですけど…あれはちょっと…」
今この場にいる全員が、見えない操り糸で動かされるまま、素敵仮面の高笑いを聞いているのだった。