<アスガルド 神の巫女>

第二幕

第一章 ルアスの町の怪盗



第八話 パレードと別れ




イリアルと別れ、門の前に差し掛かったとき、ルゼルはあっと声を上げた。
「こ、これ・・・!」
「ん?なになに?」
「どうした?ルゼル」
どうもイリアルのくれた袋の中を見てみたようなのだが、どうしたんだろう。
ルロクスと俺がルゼルの持っていたその袋の中を見てみると−−−
「エメラルドだ・・・」
「五千二百万グロッドのやつだ・・・」
俺とルロクスが呆然としながら呟くように言った。
金色のグロットの中に紛れ込むように包まった布が出てきた。
そしてそれの中には、ルアスの街に来たとき、じぃっと俺たちがもの欲しげに見ていたあのエメラルドだった。
大人の男の爪くらいの大きさ・・・丁度それくらいある。
でもこれ・・・形といい、なんといい・・・露店で売られていたのとおんなじ物なんじゃ・・・
イリアルは俺たちがこれを見てたときに、近くにいたってことか。
「こ、これ・・・イリアルに返してこなきゃ」
だっと走り出そうとしたルゼルを俺は慌てて止めた。
「ルゼル、イリアルの気持ちを汲んでやってほしい。」
きっと俺なら貰って欲しい、そう思ったからの言葉だった。
それを感じてくれたらしいルゼルはじっとエメラルドの石を見て、こくりと頷いてみせた。
「ありがとう・・・イリアル様」
グロットの入っていた袋から出し、ウェストバックのほうへと大事そうに入れる。
そこでう〜んとルロクスが唸った。
「なあちょっと疑問なんだけどさ」
ルロクスが悩み顔のまま俺とルゼルをみた。前で組んでいた手を解き、ルゼルを指差す。
「イリアルってさ、ルゼルのこと、女の子だって知ってるのか?」
「ううん、僕は言ってないけど。どうして?」
「だってさぁ…」
その後、ルロクスは言葉を濁した。それがわからないと言った顔のままのルゼルに、俺が説明をしてやることにした。
「イリアルは本当にルゼルのことを気に入ってたんだなってことを言いたいんだよな?」
「違う…」
俺が言った言葉をげんなりとした顔で否定する。
あれ、違うのか。
はぁっと溜め息をついたルロクスは少しだけ前に走り出ると、後ろを振り向かずに言った。
「ルゼルのこと、すんごい好きみたいじゃん?あいつ。
ルゼルにはとことん優しいし、大事だ〜って感じだし。
まるでさ…求婚してるみたいに見えた」
『きゅ、求婚っ?!』
ルゼルと俺は声を上げた。
「求婚だなんてそんな。僕は男だと思われてるはずですし、
好きになってくれるような人がいるわけ…」
照れているわけでもなく、ルゼルは言って首を少しだけ傾げた。
「女物の服、着てみればいいさ、ルセルに頼もうぜ。」
「いらないよ、今の服で十分だから」
ルロクスがけらけらっと笑い、ルゼルはぱたぱたと手を振りながら同じように笑った。
「ルセルにジルコンさんの新しい服、作ってもらうのもいいですね」
「え?!俺の?!」
「はい、きっと今の服よりも上の服、着られると思うんです」
「ど、どうだろう…成長してるとは自分では思えないんだけど・・・」
俺はぽりぽりと頭を掻いた。相手はその道の専門的な敵だったとは言え、ドレイルには負けてるし、牢には入れられてるし、素敵仮面には逃げられてるし…
あ…落ち込んできた…
そんな俺を見て、ルゼルがくすくすと笑って見せた。
「なに言ってるんですか〜
ジルさん、強いです。本当に。
僕なんかよりも数倍・・・」
不意に見上げてきたルゼルの視線に思わずどぎまぎして、視線をあさってのほうに向けた。
「さって!オレは邪魔しないように前のほう歩いてるから〜
ごゆっくり〜♪」
ルロクスが俺たちの横をすたすたっと早足で歩き去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待てってルロクス!」
「あ、待ってください〜」
俺たちはにぎやかにルアスの町の外門をくぐって行ったのだった。



第一章 ルアスの町の怪盗  完。