…光が弱まった?
目を開けるのが辛いような光は、もうそこにはなかった。
ぼんやりと暗闇で光る苔のようなそんな色で床が…魔法陣が輝いていた。
俺は生きてるんだよな…視界に映る自分の腕と体の感覚で無事だと知る。
腕の中を見ればルゼルはぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開いた。
「自分の姿に戻れるどころか、
醜い姿にされ、
おまけにお前に操られるなど、
後免だ。」
セルカDさんは両手を横に広げた状態でそう言った。
手が淡く光っている。
「だからこんな陳腐な技、全て無効化することにした」
「な、なにを馬鹿なこと!私の完璧な魔法…
いや、魔術を、そう簡単に破れるわけが!」
戸惑いながらも叫ぶリジスに、セルカDは静かに言う。
「何を言うのだ人間。
お前のその魔法陣は真に不出来だ。
そんなもので私が操られるわけがない。
そしてそこにいるストーンバットらしき存在。
お前も私にとっては不愉快極まりない。」
元ドレイルは自分のことを言われていることがわかったらしい。
一歩だけ、セルカDと紅き龍であるセルカさんの元に歩み寄った。
『シロ、クルシイバショ。
デタカッタ。
モトノスミカへイキタカッタ。
ダガ、タタカウ。
ソイツトタタカウ。
タタカイタイトサワグ。
デスメッセンジャー、アナタサマノイシニモサカラエル。タタカウ!』
人の言葉のようでいて何か違う…
そんな違和感のある言葉を使って喋ると、ドレイルは俺へと体ごと向いた。
セルカDもふぃっと俺達の方を向いた。
「ルゼルとジルコンと言ったな、魔法陣は今から消し去る。退くが良い。」
その言葉にルセルさんが慌てて発言する。
「待て、デスメッセンジャー。
この魔法陣は呼び寄せたモンスターを維持するためにも必要なものじゃ…!」
「今、この目の前にいる私の本当の躰を置いておいたとしてどうなるというのだ。
お前がすぐにでも私たちを元に戻せるのか?」
「でっ、でも!」
『ルセルだ…』
少女のような優しい声が聞こえた。
これは−−−セルカさんの声だ。
冷静になったのか、セルカさんの声はとても優しいものだった。
『ルセルだ…ルセルがいる…ルゼもいる…それに…私自身までいる…』
「これはお前の体で、今お前が入っている躰が私の躰だ。」
単直に状況を説明するセルカD。
紅い龍であるセルカさんはなんとなく察しがついたのだろう。
『ルゼ…よかった…大きくなったね。あの後、大丈夫だったんだね。』
「せ…セルカっ!
ごめん…ごめんなさい…僕のせいで…僕の力のせいで…っ!」
紅い龍の瞳はしっかりと開き、俺達を見つめていた。
それはとても優しく、ルゼルを見つめている。
『ルゼの不思議な力、私知ってた。
だから大丈夫…今すぐに元に戻れなくても大丈夫だから…』
セルカDとルセルさんの話をしっかりと開いていたんだろう…
目を開いていたくないほどの状況へ、今までデスメッセンジャーがいた場所へまた戻すというのに、セルカさんは気丈にも“大丈夫だから”なんて…
ルゼルが涙を溢しながら、今にも薄れて消えてしまいそうな紅い龍の姿をしたセルカさんに向かって言う。
「絶対に、元に戻せるように、がんばるから!
だからもう少しだけ、もう少しだけ待ってて…!
ごめんなさい…ごめんなさい…」
「セルカ!すぐに完璧に元に戻す!
それまでしばらく耐えてくれ。」
ルゼルとルセルが必死に叫ぶ。
もう見えなくなりそうなそんな姿でセルカさんはくすりと笑うとこう言った。
『ルゼが…ルセルが…ひとりじゃなくってよかったぁ…』
紅い龍の姿は目の前から消えた。
「死んだ…とかじゃないよな…
違う場所に帰ったんだよな?!」
今まで静かに聞いていたルロクスが声を荒げた。
セルカさんの姿のセルカDはこくりと頷く。
「この魔法陣の力を解除した。つまりは幻の城へ帰っていくより他、ないだろう?」
そしてドレイルのほうを見つめた。
ドレイルは紅い龍がいなくなったことに反応して、ぎらりと目を剥く。
「主がいなくなれば勝手に動ける、などと考えているんだろう。
我が棲み家とは違う場所ではあるが、上下関係は理解できるくらいの異形か。」
セルカDはそう言って鼻で笑う。ドレイルはぎょろりとした目で俺を凝視している。
「せ、セルカD…さん…このドレイルをどうにか元の、その城とやらに戻すことはできま‐‐‐」
「不可能だ。」
言い切られる。そしてセルカDはリジスのほうへと目をやりこう言った。
「私は、知識が消えてもなお、人間たちはモンスターを産み出す。
それが不愉快で堪らない
だから排除をするまでだ。
モンスターだという誇りを持たぬモンスターなど消すのみ。
スオミの森の面妖な木のように私が消し去ってくれよう」
ルゼルの頼みをセルカDは突っぱねると、ドレイルに視線を向けて、攻撃の体制を取る。
俺はそれに待ったをかけた。
「俺に…やらせてくれ」
その言葉を聞いてセルカDは冷たい瞳を俺に向けた。
そして−−−…一瞬だけ、セルカDの雰囲気がふっと和らいだ。
「いいだろう。」
言うと構えていた紅い玉のついたスタッフを引いた。
「我はそちらの男でも殺すことにするか。」
淡々と言い、セルカDの目線はリジスへと向けられる。
「…はん!たとえ中身はデスメッセンジャーであっても、
今はただの聖職者であるお前が、人を殺せるようなスペルを持っているわけがない!」
リジスがそう言い、数歩下がったのを見やったとき、俺とドレイルとの戦いは始まった。
「タタカウ!
・・・タタカイダ!!」
ドレイルが速攻で、俺との間合いを詰め出した。
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