<アスガルド 神の巫女>

第一幕

第四章 ディグバンカー前の出来事



第二話 焚き火を囲って


「ずいぶん乾いたよなぁ〜ルゼルはどう?俺のより分厚そうだけど、乾いたか?」
「んー、後もう少し」
「服、脱いで乾かしゃいいのに」
「でも、もうちょっとだから」
二人の声に気が付いて目を開けると、ルゼルとルロクスが火に当たりながら服を乾かしている様子が目に入った。
自分ではずいぶん眠っていた気分でいたが、今の様子だとそれほど眠り込んではいなかったようだ。
「ほいっ、乾いたぜ帽子、ありがとな。」
「あっ、ありがとう」
ルロクスから帽子を受け取ったルゼルはいつものように帽子を被った。
あぁ、ルゼルらしくなった。
「ルゼルっていつも帽子かぶってるよな〜いいな〜オレも欲しい。」
「これは僕のだからね?」
『わかってるよ〜』という返事をしながらも、ルロクスはなお『いいなぁ〜』を連呼している。
さすがにルゼルも困った顔をして視線を泳がせたとき、俺の目線とかち合った。
ふんわりとルゼルが笑う。
「おはようございます。どうですか?目は」
「…大丈夫そうだよ。悪い。心配かけたりして」
言いながら起き上がる俺。
まだ心配して俺を支えようとしてくれるルゼルの手をそっと制する。
『大丈夫。ありがとう』と声をかけると、『そうですか』と言ってにっこりと笑う。
…うん、いつものルゼルに見える。
さっきはなんであんな風に見えたんだろう…本当に目が疲れてたのかもなぁ…
「ジルコンって、病弱?」
「一応、そんなことは無いぞ?」
「目の疲れは仕方ないものです。
ジルさんは僕たちよりも周りに敵がいないかどうか、気を配っているんですし」
ルゼルがそう弁護してくれているのを聞きながら、俺は寝る前に外した防具一式を置いた場所を見た。
が、無い…?
「あっ、乾かしておきましたよ。はいっ」
言って、ルゼルが差し出したのは俺の防具一式。触ってみるとしっかり乾いている。
ルゼル、まだ自分の服が乾ききってないのって…この防具の方を先に乾かしてたからか…
「ありがとう」
拝むように御礼を言うと、ルゼルは『いえいえ〜』と軽い調子で答え、再びルゼル自身の服を乾かしだした。
後は自分のズボンくらいか…生乾きになってるから少し気持ちが悪い。
「なぁ、そろそろ腹減らねぇ?昼にしようぜ〜?」
ルロクスが寮の手のひらを焚き火にかざしながら、俺とルゼルに空腹を訴える。
「そーだな、昼にするか?」
「そうですね。お肉炙って食べましょう」
「おうっ!食べよう食べよう!」
ルゼルが荷物から出した肉を即奪い取るように受け取ると、ルロクスは待ってましたとばかりに炙り焼き始めたのだった。


「あぁ…がまんだ…もうちょっとがまんだ…」
「ルロクス、そんなに見つめていなくっても…」
「だってさ…こげちゃヤだしさ…でもしっかり焼きてぇし…」
ぶつぶつと言いながら、ルロクスは焼けていく肉を食い入るように見つめていた。
まだ外は雨が降っていたが、肉焼き用にと森の木の枝を折り、それを利用して肉を串焼きにしていた。
肉とは言っても生肉ではなく、干し肉。それでも肉は肉。しっかり焼いておく方が良い。
そのためにしっかりおあずけを食らった犬のようにルロクスはじぃ〜〜〜っと肉を見つめている。
その様子を見て苦笑しながら肉を炙るルゼル。
俺も自分用の肉を炙りながら苦笑いした。
辺りに焚き火が燃えている煙と共に、いい匂いが漂う。
もう、いい頃合いかな。
「ルロクス、もういいと思うよ」
ルゼルのその言葉に飛びつくように串焼き肉を取ると、『あちっ!あちっ!』と言いながらも幸せそうに頬張った。
俺たちが串焼き肉2本目を食べようかとした時だった。
突然、声がしたのだ。
「待ちなさいッ!」