<アスガルド 神の巫女>

第一幕

第三章 ミルレスの森のモンスター



第五話 そして物語は伝説へ・・・


「また、近くに来たら寄ってね」
リフィルさんは笑いながら軽い調子でそう言った。
モスがなぜリフィルさんにだけ多くたむろうのか…
その原因が、あろうことかリフィルさんの暴りょ…えっと…絶大なる能力に、森に住むモスたちが惚れたためだったということがわかって、一件落着となった。
モスが…何となく…難儀に見える…
「リフィルさん、ベルイースさん、カラルさん、泊めていただいてありがとうございました」
「いやいや、気にしないでいいよ〜」
「お気になさらずに〜」
ルゼルがお礼を言うとベルイースさんとカラルさんは手をぱたぱたと振りながらにっこりと笑った。
そんな横でベルイースさんに睨みをきかせる人物が…
ベルさんもその視線に気づいたらしく、びくんと身を揺らした。
「そそ、居間なんかより、普通の部屋に泊まらせてあげたかったんだけどねぇ…
ベルがわがまま言うから…ベル、謝っときなさい。」
「…す…すみませんでした…」
「あ、え、えっと…ベルイースさんが悪くは無いんですからお気になさらずに。
俺達は泊まる場所を頂けただけで、十分嬉しかったんですから」
頭を深く下げるベルイースさんに、俺は慌てて頭を上げるように頼んだ。
ベルイースさんが、潤んだ瞳で顔を少し上げる。
あぁぁぁ、不憫だ…
「ベ、ベルイース…強く生きろよ…」
「あぁ…
近くに来たらほんっ〜〜〜〜っとぉ〜〜〜〜に寄ってくれよ…?ルロクス…」
ルロクスとベルイースさんが握手を交わす。
「くれぐれも、体を大切にな」
「おうっ。生きてろよ?ベルイース」
「あぁ、努力する…」
「がんばれよ…」
握手する手が強くなっているのが、少し離れた場所にいた俺の目からでもわかった。
…やっぱり…何か強い友情が…生まれたらしい…
「ジルコンさんたちは、ミルレスの町に行くの?」
「おう!ミルレスの町を見に行くんだ〜」
ルロクスがベルイースさんの手を握ったまま、楽しそうに声を弾ませて言う。
リフィルさんは『ふむふむ』と言った後、こう言った。
「まぁ、ミルレスは御神木とか見ると楽しいでしょうねぇ…人間関係ごたごたしてるケド。」
「姉さまっ」
カラルさんが咎める声を出す。リフィルさんは『あはは』と笑うと
「ま、見物するだけなら楽しいと思うわよ〜長居しないほうが得策だと思うケド。」
「もうっ、姉さまっ!」
カラルさんが怒る。そして、『姉さまが言うのは本当なんですけど…』と続けて話し出す。
「今、ちょっとミルレスの町の神官さんたちがもめてまして…裏では殺伐とした雰囲気ではあるんですけど…
でもっ、観光の方には全く関係ない話ですから」
申し訳なさ気に話し、苦笑いを浮かべる。
「元々、私達はミルレスの町に住んでいたんです。
ミルレスはいいところですよ。
気候も良いし、神聖な力を発しているご神木があるので、空気がとても澄んでいるんです。」
「へぇええ〜〜〜」
ルロクスが興味深げにカラルさんの話に聞き入る。そしてさっきより更に瞳を輝かせる。
「なぁなぁ!早速行こうぜ!ミルレス!」
「そうだな」
俺はリフィルさんとカラルさんを見やり、一礼をした後、明るく、挨拶をした。
「それじゃあ、皆さん、ありがとうございました」
「いえいえ、皆さん、お元気で〜」
「それじゃあな〜!」
「またいらっしゃいね〜」
カラルさん、ベルイースさん、そしてリフィルさんが明るい声で言い、ミルレスへと続く道へと向かう俺たちに手を振った。
「じゃあなぁ〜〜!」
ルロクスが大声で叫び、大きく手を振る。
リフィルさんたちは、俺達の姿が見えなくなるまで、いつまでも見送ってくれていた。


「ルロクス〜あんまり先に行くと、危ないってば!」
ルロクスの浮足だった歩みに追い付くべく、早歩きになりつつある俺とルゼル。
まだ知らない場所に行けることで嬉しいのはわかるんだが…
「ル〜ロ〜クス〜ここは森だっていうのを忘れてないか〜?」
するとルロクスは振り向きもせずに俺に言った。
「わかってるぜ〜?この森の道がミルレスの町に続いてるってことくらいは〜」
あぁ…わかってないな…これは…
俺が呆れていると、ルロクスはそんなこと全く気にせず、生き生きとした声でしゃべりだす。
「さあさあ行こうぜ!ミルレスの町がオレたちを待ってるぜっ!!」
そして、いきなり走り出すルロクス。
ああっ、更に先に行くなっ!
「ルロクス〜待って〜っ」
「ちょっとこらっ!ルロクス〜!」
俺とルゼルは走り出したルロクスを追って、ミルレスの森の中を走っていく。
そんな俺たちにも、ミルレスの森は優しい木漏れ日を与えてくれていた。


第三章 ミルレスの森のモンスター  完。