<アスガルド 神の巫女>

第一幕

第二章 ルアスの城の魔術師



第四話 城への誘い


りっぷさんの家は、一人住まいにしてはなかなか大きい佇まいをしていた。そこに招き入れてもらった俺は今までの経緯をりっぷさんに話したのだった。
「そゆことなら大丈夫だよ〜俺にまかせて!」
一通り話し終わるとりっぷさんはにかっと笑って自分の胸を叩いてみせた。
時折、ふんふんやらほ〜やらいろんな相槌が時折言っていたが、なんとか理解してくれたようだ。
「俺の師匠に聞いてみれば大丈夫だよ〜」
俺たちの言葉を待たず、りっぷさんは『ちょっと待っててね〜』と言うと、上に続く階段の下から大声を上げた。
「師匠〜〜〜!ちょっとこっちきて〜ぇ〜!」
とんとんという音と共に現れたのは、りっぷさんと同じ服を着た男だった。
同じ服と言っても、その人が着ている服のマントなどのもろもろの色は白い。オールバックの銀色の髪と合っていてとても威厳のある風貌だった。そしてその服から見える筋肉の付き具合は、うらやましいほどの良いものだ。
この人がりっぷさんのお師匠様か。
師匠と聞いて頭の片隅によぎった、自分のお師匠の姿に俺は苦笑した。
「クウっていうんだ〜よろしくね〜」
にこにこ顔でいうりっぷさんに反して、紹介されたりっぷさんのお師匠さんであるくうさんは『よろしく』といったものの、その後はじっと俺たちを見やっていた。何か値踏みされているような気がしてなんとも居心地が悪い。
「この親切な人たちがね、城に入りたいんだって〜」
「どうして?」
間髮入れずにくうさんが尋ねる。するとりっぷさんはこう言い出したのだ。
「あのね、この人たちね、じ・つ・わ、城に入って盗みを働こうとしてんのっ♪」
おいっ!いきなり何嘘を言って…!
「あのっ!そういうわけじゃなくって、友人が城の宮廷魔術士になったみたいなんです。
その友人とどうしても話をしたいんです。でも城には入ることができませんし…」
細かく言うとややこしいから大まかに伝えた。するとクウさんはうんと一回頷くと、
「入る方法は普通にある」
と言った。
「普通にある?ってどゆこと?もしかして城って誰でも入れるのか?!」
ルロクスが驚きの声をあげたがクウさんは首を横に振って見せた。
「いや、近々、城でパーティがある。」
そうか、それに潜入すればいいというわけか。
「そのパーティは俺たちも普通に入ることができるんですか?」
「いや、友人の紹介があれば入れるだろうが…その代わり、協力してくれないか?」
クウさんの突然の提案に俺は疑問に思いながら見やった。
「かくいう俺も頼まれてる側だが、人手が足らない。」
「!?師匠!あの内緒な話、みんなにするん?」
りっぷさんが言いながら椅子に座る。クウさんもりっぷさんの横の席に座ると、話の続きを語り出した。
「友人がこう言うんだ。『この頃城がおかしい』と。
詳しくは語ろうとしないが、そんなこというのは初めてだったから気になってな。
パーティもその友人から出てほしいと言いにきたくらいだ。
そこでだ。」
クウさんが俺たちの方へ身を乗り出す。そのドアップになった真顔のままのクウさんに少し引き気味になりながらも俺は話を聞く体制をなんとか保つことができた。
「俺たちと共にパーティに出て、何も起こらないように見張っててくれ」
悪い提案じゃない。だが俺には引っ掛かる点があった。
「何か起こるかもしれないとご友人が危惧しているのはわかりました。
お、お言葉を返すようですが、騎士団もいる城の中で何が起こるというんですか?」
「そ〜だな。まあ、オレたちが入れるんなら何でもいいけどさ、騎士団がいるからそんな心配いらね〜じゃん?」
俺とルロクスが口々に言うとクウさんはふいっと時計を見やった。
時計はきりの良い時間を指している。
「丁度良い頃合いだ」
何が丁度良いんだろう?俺が疑問に思ったとき、家のドアが開いた。


「時間ぴったりだな」
クウさんが言った。
「待たすわけにもいかないだろ?」
そう言って部屋に入ってきたのは豪華な金色の騎士服を着た男だった。
騎士のその男は部屋に入ると、そっとアメットを脱ぐ。
その銀色に輝くアメットの下からは燃えるような赤い髪が現れた。
あれ…この人どこかで…
「ええっ!この人がクウさんの友人?!」
ルロクスは驚き、『うわ〜騎士さんだ、すげ〜』と小さく呟く声が聞こえた。
「もしかしてこの人ってさ、さっき広場で歩いてた人じゃない?」
ルロクスに言われて思い出した。
どこかで見た顔だなと思ったらこの人、さっき広場を歩いていた騎士団の、しかも一番先頭を歩いていた騎士の人だった。
その騎士は俺たちを見るなり、
「ちっこいのとでっかいのだ…」
…え〜っと…どう反応すればいいんだろう…
「は、初めまして。ルロクスっていいます。お、オレ、広場であなたの姿見ました!」
「ウム。確か、騒いでるのを見た」
「気付いてくれてたんですか?!嬉しいなあ…」
本気で嬉しそうにしているルロクス。ルロクスには騎士というのは物凄く憧れなんだろうか…
「で、クウさん、話をしたいんだが…」
と言ってちらりと俺たちを見やる。俺たちがいると話しにくいことがあるんだろう。だがクウさんは首を縦に振ると、
「この人たちも手伝ってもらうことにしたから」
と告げた。
涼嵐はいぶかし気な顔をする。
そこにすかさず、りっぷさんがこう言った。
「大丈夫〜!この人たち、親切だから〜」
「いや、そういうわけじゃなく…」
「心配しないでいいだろう。この人たちも城に入らなければならない事情があるらしいが、すずくんが心配する事態を起こす人ではないはずだ。そう俺は思う。」
クウさんがそう言うと納得したのか『ウム』と言って空いている席へと座った。
「クウさんが言うんなら信じよう。おれの名前は涼嵐。よろしく」
手を差し出されての挨拶に、俺は慌てて手を差し出し―――
「りっぷが言ったことも合ってるらしいな」
と涼嵐さんは言った。気付いてみれば俺が差し出していた手は…
「でしょ?でしょ?大事な右手の方を出すでしょ?
だからいい人で、親切な人って言ってンの!」
また右手を出していたのだ…
いや、だって、差し出された手が右手なら自然に出しちゃうもんだろう…?
「相手が右手出しても、普通は断るからな…」
そう言って涼嵐さんは小さく笑った。
思わずの行動とはいえ…なんだか恥ずかしくなってきた…
「まぁ、性格はわかったからいいとして…名前は?」
「あ、挨拶が遅れました。ジルコンです」
「オレはルロクスって言います!」
涼嵐さんに握手を求めるルロクス。涼嵐さんの手を張り切って握り返すと、瞳をきらきらさせて尋ねた。
「で、オレ達に手伝ってもらいたいことって具体的にどうすればいいんですか?」
「お〜それ、おれも聞いておきたいことだったんだケドさ〜!
すずさん、実際になにすればイイの〜?」
ルロクスとりっぷさんが交互にしゃべりかける。
涼嵐さんは『フム』と一言呟いた後、話し出した。
「城のパーティに出席して、何か起こったら戦って欲しい。」
「戦う?」
『ウム』と涼嵐さんは言うと少し苦い顔をして言った。
「この頃、城の中にモンスターが出現するという事態が発生している。原因は不明。
解決もされていない。そんな状態でのパーティだ。今まではモンスターもレベルが低いやつばかりだったから良かったが、人が沢山来るパーティの日にそんなモンスターが出たとしたら、どうなると思う?」
「パニック…ですね」
「慌てふためいて無駄に怪我をする人が増えるな。」
「え〜っ、騎士団がかっこよく大活躍できるからイイんじゃないの〜?」
深刻に考えている中で、深刻に考えていないだろう者が約一名…
・・・。
「…りっぷは所詮りっぷか。」
「すずさん、なんかヒドイっ!ヒドイわぁ〜〜〜!」
シナを作ってしゃべるりっぷさんを一同、無視して、話を続ける。
俺を含め、皆、りっぷさんに突っ込む気は無いらしい。
「で、そうならないためにも、保険が欲しい。
そこでクウさんに話を持ってきた。
普通、こんなこと、外部に漏らすわけにもいかない話だからな。
ということだから−−−」
「わかってます。“他言は無用”ってことでしょ?」
人差し指を自分の唇につけて、ルロクスが嬉しそうに言った。
「こっちとしては…城に入れるならそれくらいしますが…」
「なら、いいだろう?すずくん」
「まぁ人手はあるほうがいいが…ジルコンとルロクスはなぜ城に入りたいんだ?」
問われた俺は、知り合いが宮廷魔術師になったんじゃないかってこと。そしてその知り合いに話し合っておきたいことがあるからと理由を述べた。
すると涼嵐さんは『ホム』と呟いた。
「確かに宮廷魔術師は一人増えた。しかも、もうすでに凄腕と評判になってる」
そんな噂話は知っているが涼嵐さんはまだその宮廷魔術師を見ていないと言った。
城の中でも所属する場所が違えば、会うことは無いのかぁ…。
「でも、探すのには骨が折れると思うが。」
「へ?」
涼嵐さんの言っていることがよくわからず、俺はぽかんと涼嵐さんを見ていると、りっぷさんが、『あぁ〜』と大げさに頷いた。
話に取り残されたような俺たちを見て、クウさんがこう教えてくれた。
「パーティはな、仮装パーティなんだよ」
と。